不条理に向き合う、生と性 小池真理子さん「千日のマリア」 短編8編、執筆9年

2015年02月24日

小池真理子さん

 小池真理子さんの最新短編集『千日のマリア』(講談社)は、老いや不条理に直面する8人の男女が主人公だ。執筆にかけた9年間、作家自身に流れた時間もいや応なく映り込んでいる。「そのときどきの感情曲線が表れている。こんな作品集は初めて」と小池さんは言う。

 男女の生と性を描いた8編からなる。表題作「千日のマリア」は、交通事故で片手を失った男が主人公。精神的に持ち崩し、事故の原因となった義母への復讐(ふくしゅう)心をサディスティックな性的欲求に変えていく。
 「自分に不幸を与えた人間を責めることでしか生きられなくなった人。でも、こういうこともあるだろうなと。人間の性はこういうときに暴発するのかもしれない」
 若く美しかった女たちにも、不条理は平等にふりかかる。自分を振った恋人を待ち続け、醜く年老いていく多幸症の女を書いた「修羅のあとさき」。元モデルの老女が一心不乱に落花生をむさぼるシーンが印象的な「落花生を食べる女」。描かれている人生は、かなしくて滑稽で、そしていとおしい。
 9年余りにわたって断続的に書き落としてきた短編たち。はじめは、作品集として、単なる寄せ集めにならないかと不安だった。
 「通して読んでみたら驚くくらいに一つの芯のようなものがあって。私自身の中で通り過ぎてきたもの、熟成したものが知らず知らず核になっていたのかもしれない」
 この間、パーキンソン病の父をモデルにした長編『沈黙のひと』で、吉川英治文学賞を受賞。短編の名手として知られるが、直木賞受賞作『恋』など長編でも高い評価を受けてきた。一方で、「読むのも書くのも短編が好き」という。
 「あるたくらみの中で、集中して物語をつくっていく長編とは違い、短編にはそのときの作家自身の感情の嵐がそのまま表れてしまう」
 父の介護のさなかに、母も認知症に。2人をみとった時期にもあたる。親しかった作家仲間のうち、何人かも鬼籍に入った。「気がついたら、死がすぐそこにあった」。その気配が、この短編集に不思議な通奏低音を生んだ。
 作家として関心を持ち続けているテーマは「時間」。
 「人間の中に流れている時間、取り戻せない時間、それを感傷じゃない方法で書きたい」
 年を重ねる度に、自分の中に堆積(たいせき)していく時間。それを財源に筆をとる。
 「時間は死ぬ直前まで流れている。私は、死ぬまで書き続けられます」(板垣麻衣子)

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