野村四郎『狂言の家に生まれた能役者』刊行

2015年03月09日

野村四郎さん

 能楽師の野村四郎(78)による著書「狂言の家に生まれた能役者」が刊行された。四郎は、観世流シテ方の名手として宗家を支える。「芸談というとおこがましいのですが、能という生命体の源としての体験談です」と語る。

 狂言の名人・六世野村万蔵の四男。いずれも狂言の人間国宝の野村萬、野村万作を兄に持つ。3歳から10代半ばまで狂言の舞台に立ち、15歳で観世流に入門。「父は、新たな挑戦を理解してくれる人だった」と振り返る。

 著書では、こうした育った環境、天才的な能楽師・観世寿夫との出会いなどに触れる。能にまつわる性根、構造、演出、越境、教育の各章が続く。「茶道でいう『守破離(しゅはり)』を私流に言い換えると、基本の習得、応用、創造。その流れで書いた」。名曲「井筒」「野宮」の比較、バロックオペラの演出・出演の経験など具体的な記述が多い。

 特徴的なのは「役の性根」「作品の性根」という考え方。「性根」は核心、本質というような意味で主に歌舞伎芸の表現だ。「『性根』はもともと世阿弥も使った。戦後、西洋の価値観を会得することで、かえって日本の魂を再認識できた。幅広い感性を持つことができたから、そう考えるのかもしれません」という。

 「役に入り込むのではなく、役を引きつけることで役の性根が見えてくる。そして心は、前ではなく、背中に込めるイメージです」

 能は、二項対立の上に成立する芸ともいえる。前進と後退、天と地、表現と表現しないこと……。「両極の世界が一つになる。100歳の老婆の前への一歩は、うんと後ろにひっぱらないと、100年の世界の一歩にならない」

 四郎は二項を意識することで、能役者としての根本姿勢を見いだしているようだ。「能はシリアスなものが多いので、日常は明るくを心がけています。好奇心という開かれた心と、己の内側に向き合う心と、すべて“開閉”が肝要だと思うのです」

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 白水社、2500円(税別)。四郎は13日に東京・水道橋の宝生能楽堂での「求塚」、27日には東京・渋谷の観世能楽堂での「井筒」でシテをつとめる。(米原範彦)

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