心と言葉、もどかしい距離 小説すばる新人賞受賞・中村理聖さん

2015年03月10日

「小説すばる新人賞」を受けた中村理聖さん=戸村登撮影

なかむら・りさと・28歳

 花村萬月さん、朝井リョウさんら人気作家を多く世に出してきた「小説すばる新人賞」を、京都市在住の会社員、中村理聖(りさと)さん(28)が受賞した。受賞作「砂漠の青がとける夜」(集英社)は、心を閉ざした人たちが外の世界を手探りする姿を、繊細な文章で描いた秀作だ。

 雑誌編集の仕事を辞めて東京を離れ、京都で姉のカフェを手伝う女性が主人公。物語の鍵を握るのは「言葉」だ。

 決まり文句を使い回すようにして量産してきた飲食店紹介の記事、その頃の不倫相手が口にした、どこかそらぞらしい言葉の数々。灰色の言葉に押し流されるように生きていた主人公が、いくつかの出会いをきっかけに、血の通った言葉を取り戻していく。

 「自分の気持ちをうまく言葉に結びつけられないことが多くて、それがいつも嫌だった」と中村さん。感情のグラデーションのようなものが、言葉にしたとたんにこぼれていく感覚。文章を書くときも「気持ちと書いたものに距離があって、どこにも届かないのがさみしくて」。そんなもどかしさを、そのまま物語に託した。

 小説を書き始めたのは高校の頃。「誰かを楽しませたいのでも、驚かせたいのでもない。自分の中のもやもやを解消するために書いてきた」。でも今回の受賞で、「個人的に書いたものでも、読み取ってくれる人がいるんだ」と実感した。

 劇的な事件が起こる小説ではない。登場人物たちが自分の心と向き合う、ささやかな物語。けれど本を閉じたときにきっと、みずみずしい何かに触れたような感覚が残る。「人のあいまいな気持ち、心の微妙な揺れのようなものを書いていきたい」(柏崎歓)

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