「全てを笑い飛ばす必要ない」 又吉さん小説、発行35万部

2015年04月07日

又吉直樹さん=早坂元興撮影

 お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さん(34)の本格的小説デビュー作『火花』(文芸春秋)が大きな話題を呼んでいる。作品が掲載された文芸誌「文学界」2月号は、同誌史上初の大増刷。単行本は35万部発行と異例の売れ行きだ。

 「いいものが書けたと思ってます。ミスがないわけじゃないですけど、体重はめっちゃ乗ってると思う」。エッセーではすでに定評があったが、本格的な小説はこれが初めて。テレビの収録などが終わった後の深夜から明け方にかけ、3カ月間、寝る間を惜しんで執筆したという。

 物語の語り手は、又吉さん自身を思わせる若手芸人の徳永。花火大会の余興で出会った年上の漫才師・神谷の他人にこびないお笑いのスタイルに心酔し、慕うようになる。師弟関係となった2人は東京の街をさまよい、ときにお笑い論をぶち上げ、うだつのあがらない毎日を送る。

 「コントもそうなんですけど、僕の書くものは、2人以上の人間がいてどっちもまともじゃない。1人の人物を描くというより、そういう2人以上の関係性そのものを、小説でも丁寧に書いてみたかった」

 芸人として徐々にチャンスをものにしていく徳永に対し、笑いの純度を追求するあまり周囲に理解されず、私生活も持ち崩していく神谷。「お笑い」というショービジネスに夢を懸ける若者のおかしみと悲哀を、経験に裏打ちされたリアリズムで描き出した。

 芸能界屈指の読書家が、文学に目覚めたのは中学生の頃。「ずっと心の中で自分で自分に向かってしゃべってる自分はおかしいんちゃうかなと思ってた。でも教科書で芥川龍之介の『トロッコ』を読んで、この人らもめちゃ自分に向かってしゃべってるやん、と」。日常の「違和」が積もった少年の心に、文豪たちの言葉が刺さった。

 中でも敬愛するのが太宰治だ。「自分の自意識を笑いにかえることができた人が、なぜあそこまでナルシスティックな『人間失格』を書いたのか。駄作という人もいますが、僕はあえてあのスタイルをとっていると思ってます」

 太宰の話になると、うつむき加減だった目がきらりと光る。「『人間失格』で太宰が書きたかったのは、全てを笑い飛ばす必要はないということなんちゃうかなと。お笑い芸人をやっていながらなんですが、僕も悲しいことは悲しいことで、笑い飛ばす必要ないと思ってるんです」(板垣麻衣子)

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