村上春樹の世界に潜って触れた 川上未映子がインタビュー

2017年05月24日

川上未映子さん=篠田英美撮影

 『騎士団長殺し』を2月に出した村上春樹さんの、川上未映子さんによるインタビューを収めた『みみずくは黄昏(たそがれ)に飛びたつ』(新潮社)が刊行された。作家が作家に創作について聞くとき、そこには何が起こるのか。川上さんに聞いた。

 インタビューは計4回。最初は村上さんの『職業としての小説家』が刊行された2015年のもので、残りは今年に入ってから。やりとりは計10時間以上に及んだという。

 川上さんはたとえば、『騎士団長殺し』に登場する井戸のような穴について聞いた。『世界の終(おわ)りとハードボイルド・ワンダーランド』や『ねじまき鳥クロニクル』、村上作品では地下の暗い空間が、繰り返し重要な役割を担ってきた。今回もそれを繰り返した意味は? 村上作品の愛読者なら、誰だって気になる。

 川上「今回も、『穴』が出てきましたよね」

 村上「そういえばそうだ。また穴の話ですね。(中略)昔書いたことってほとんど忘れちゃってるから」

 物語に埋めこまれた意味について指摘された村上さんが「なるほど、そういえばそうだ」と感心し、川上さんが「本当に何も考えてなかったんですか」とくいさがるパターンが、何度も繰り返される。

 「そういう仕掛けみたいなのがあったら、みんな即ばれちゃいます」とも村上さんは語る。書くときは物語を追いかけるのに懸命で、意味を考える余裕などないのだと。

 「計り知れないというか、自由さに驚きました。でもこれまでの膨大な読書が、その自由さを支えてるんだと思う」と川上さん。

 読みどころの一つは、女性の登場人物が「性的な役割を担わされ過ぎていないか」と問うくだり。ちょっと聞きにくいけど、でも聞きたいんだという強い気持ちが、言葉の端々からびりびり伝わってくる。

 「ときどき指摘されることなので、これを聞くのは絶対私の仕事だと思ってました」と川上さんは言う。「小説は現実の価値観に沿わなきゃいけないってことはないし、でも完全に分離してもよくない。そんな問題提起につながるやりとりができたと思います」

 この部分だけでなく、村上さんは一貫して率直にあけっぴろげに、自身の創作について語っている。ここまで手の内を明かしていいのか、と思うほどに。
 同じ書き手である川上さんの、作家としての自分をぶつけるような問いが、そんな率直さを引き出した面もあるだろう。「私が聞いて春樹さんが答える形だけど、やっぱり質問そのものに作家の自分が内包されてしまう」と川上さん。

 「作家と作家が真剣に話すって、けっこう危険なんです。私には私の創作領域があり、春樹さんにももちろん巨大なものがあって、そこに潜っていくのはそんなに簡単なことじゃない」

 でもきっと、自身にとって大切な仕事をしたという充実感があるのだろう。「二度としません、こんなのはもう絶対無理」。高揚の余韻を、うらはらな言葉に響かせた。

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