「2042年に最大の危機」 『未来の年表』河合雅司氏に聞く

2017年07月20日

河合雅司さん

河合雅司さん

■人口減少は「静かなる有事」

 新生児が減り、高齢者が激増する日本は、今後どうなっていくのか。そんな未来社会の姿を時系列に沿って描きだした講談社現代新書『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(河合雅司著)が、発売以来約1カ月で発行部数12万部のベストセラーとなっている。
 著者の河合氏は、産経新聞社論説委員として同紙に大型提言コラム「日曜講座 少子高齢時代」を連載するほか、人口・社会保障政策の専門家として大正大学客員教授を務めている。少子化は、この10年ほど精力的に追いかけてきたテーマだ。
 「本が売れているということは、少子高齢化が進む日本の未来に、漠然とした不安を抱えている人が多いということでしょう。人口減少は、太陽が昇っては沈んでいくのを観察するようなもので、昨日と今日、今日と明日を比べても大した違いはありません。しかし、確実に少子高齢化・人口減少は進んでいます」と河合氏。
 2015年の国勢調査では、日本の総人口は約1億2709万5千人で、5年前の前回調査より約96万3千人減った。これは1920年の初回調査以来、初めてのことだという。また、2016年の年間出生数は約97万7千人で、これも初の100万人割れである。
 「もはや後戻りできないまでに事態は進んでいます。2020年には、女性の過半数が50歳以上となって出産可能な女性が大きく減り始めます。今後の人口減少は避けられない事実です。まさに日本という国の存亡の危機といってもいい。私は、これを『静かなる有事』と名付けていますが、この事実から目をそらさず、一刻も早く対策を立てる必要があります」という。

■年表形式で将来、起こりうる事態を可視化

 本書の最大の特色は、少子化・人口減少によって起こるであろう様々な問題を年表化したことだ。これにより、従来、労働力不足や社会保障制度の破綻、認知症対策、地方の過疎化等々、個別に論じられてはきたが、全体像が捉えにくかった少子高齢社会の課題を、あたかも近未来を旅するかのような臨場感、切迫感をもって見渡すことができるようになっている。
河合氏は、この本を執筆するに至った経緯について、次のように語る。
 「今後の日本が一覧できる年表のようなものがつくれないかというアイディアは、講談社現代新書の青木肇編集長から出されたものです。ただ、このお話をいただいたとき、正直言って、二つ返事で引き受ける勇気はありませんでした。これまでの蓄積があるとはいえ、幅広いテーマを拾い上げて、膨大なデータを読み解き、まとめ上げることが果たして私1人でできるのかという不安があったからです。しかし、そんなときに頭に浮かんだのは、一昨年、首都圏の中学・高校生主催の討論会にゲストパネリストとして参加した際、ある女子中学生から発せられた『大人たちは何かを私たちに隠している』という言葉でした。現在、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けての議論が盛んですが、実は、さらに深刻な事態が予想されるのは、日本の高齢者人口がピークになる2042年です。その時、社会の中核的な支え手となるのが、現在の中高大生たちですから、彼らに早く事実を伝え、対処法を考えてもらうことが、私のジャーナリストとしての責務ではないかと考えました」

■日本最大のピンチは2042年

 本書の第一部・人口減少カレンダーには、「2024年 3人に1人が65歳以上の『超・高齢者大国』へ」「2026年 認知症患者が700万人規模に」「2030年 百貨店も銀行も老人ホームも地方から消える」「2039年 深刻な火葬場不足に陥る」「2040年 自治体の半数が消滅の危機に」など、衝撃的なトピックが並ぶ。なかでも、河合氏が「日本最大のピンチ」と位置付けるのが、2042年だ。
 この年、団塊ジュニア世代がすべて高齢者の範疇に入り、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、高齢者数は3935万2千人となる。一方、団塊ジュニア世代といえば、バブル崩壊後の不況の時期に社会に出た世代だ。結婚して子どもを産むどころか、非正規労働者として低賃金・無年金のまま年を重ねてしまった人たちも多い。つまり、社会が支えなければならない人と支え手の数の不均衡が大きな問題となってくのがこの年で、団塊ジュニア世代がすべて75歳以上となる2050年には、社会保障制度の破綻懸念が強まると見られている。
 「実際、購読者の方々は30代後半から40代前半の団塊ジュニア世代が多いと聞いています。やはり、ご本人や自分の子どもたちの将来がどうなるのか、高い関心をもっておられるのでしょう。少子高齢化・人口減少がこんなに深刻な問題だとは思っていなかった、衝撃を受けたという感想もよく聞きます」と河合氏。

■戦略的に縮む

 このような未来に対して、私たちは何ができるのか。河合氏は、本書の第2部で、「日本を救う10の処方箋」として、人口減少という事実を真摯に受け止め、それに見合ったコンパクトな社会への作り替えを提言する。河合氏が言うところの「戦略的に縮む」という選択肢である。
 「一言でいえば、20世紀型の成功体験とは訣別するということです。人口が増加していた時代のやり方を維持しようとすれば、遠からず破綻することは目に見えています。日本老年学会が提言したように、『高齢者』の定義を変更することも1つの方法でしょうし、24時間社会からの脱却、市区町村という行政枠組みの見直しなど、国家的規模での取り組みを継続して行っていく必要があると思います。ある意味で痛みを伴うこともあるでしょうが、次世代にすべての負担を負わせるわけにはいきません。80代なら80代、50代なら50代なりに、孫子のために考えてほしいと思っています。また、若い世代にとって、変化はチャンスです。戦後、経済大国となった日本がどのように人口減少という課題を乗り越えていくか、世界も注目しています。ぜひ、自由な発想で『小さくとも輝く日本』を、みなさんの子どもたち世代に引き継いでいってください」と河合氏。
 人口減少に対しては、短期的な取り組みと同時に、世代や立場を超えた中・長期的な取り組みが必要だ。しかし、一方、危機感の共有や継続が難しい問題でもあると河合氏はいう。そのため、繰り返し問題提起を行っていくことがジャーナリストの務めだとも。「未来の年表」の第2弾、第3弾が待たれるところである。(秩父啓子)

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