団塊への新たなメッセージ 『60歳からの楽々男メシ』弘兼憲史さんに聞く

2017年09月28日

弘兼憲史さん

弘兼憲史さん

 『島耕作』や『黄昏流星群』など、ロングセラーを生み出し続けている漫画家の弘兼憲史さんは、同世代のシニアに向けたエッセイ集も多い。その弘兼さんが7月に『弘兼流60歳からの楽々男メシ』(マガジンハウス)を出版した。弘兼さん流の「男の料理」は、どんな料理なのだろう。楽しみ方をうかがった。

■仕事場で毎日作る

————『60歳からの楽々男メシ』の巻頭には、弘兼さんが仕事場で毎日、作っていらっしゃる料理写真がカラーで掲載されていますね。どれもとてもおいしそうです。
 僕の仕事場ではもう40年以上、まかないメシを作っています。仕事の合間に食べる料理ですから、手早く食べられるものがいいのですが、店屋物ばかりだと、どんぶりや麵類が多くなり、どうしても栄養が偏ってしまいます。それなら、自分たちで作ったほうが好きなものがいろいろ食べられるし、栄養バランスもいいということで始まったんです。ご飯にみそ汁、メインのおかずと小鉢がつく一汁二菜で栄養バランスがいいことを鉄則にしています。

————まったく料理をしたことがないシニアの男性でも「これならできるかも」と思えるアイデアがいろいろ紹介されています。「インスタントラーメンから始めればいい」なんて言われたら、ほっとしますね。
 学生時代を振り返ってみれば、インスタントラーメンくらいは作っているはずです。それに野菜を切って一緒に煮込めば、立派な1品になります。難しく考えず、やってみれば、誰でも料理はできるんです。ただ、これまでは奥さんに任せていただけなんですよね。

■初心者にも作れるレシピ

————本に登場するレシピは弘兼さんの経験から生まれたものばかりだそうですね。
 ええ。料理の初心者でも簡単に作れるレシピを紹介しています。最初に紹介している「白髪ネギのつまみ」の材料は、長ネギをとゴマ油、醤油でできてしまいます。包丁の使い方が覚えられるように、長ネギの切り方も詳しく書いています。シンプルな料理ですが、お酒に本当によく合いますよ。
 「きんぴらごぼう」や「簡単イカ大根」にも、ぜひ挑戦して欲しいですね。どちらも味付けに使っているのは、「昆布つゆ」や「つゆの素」などの名前で市販されている出汁醤油です。砂糖や醤油、みりんの分量は……、なんて頭を悩ませなくても、1本で味付けられるんです。「イカ大根」のポイントは、大根を軽く炒めることです。出汁醤油がよく染みこんで、おいしくなるんですよ。料理をしながら、そんなおいしくなるコツを発見するのも楽しいんですよね。

————弘兼さんは若い頃から料理に親しんでいらっしゃったんですか?
 学生時代に一人暮らしをしていたときから料理はよく作っていましたし、社会人になってからも、友人の家で集まりがあったりすると、「ちょっとキッチン、借りるよ」という感じで、ささっと酒のつまみなどを作っています。料理が好きなんですよね。子どもが学校に通っていた頃は、お弁当づくりは僕の役目でした。
 仕事場のまかないメシも、近所のスーパーに買い出しに行くことから自分でやっています。「お、そろそろカツオが出てきたか」とか、旬の食材の移り変わりを眺めるのも楽しいですよ。仕事場では、僕が腕をふるうことが多いのですが、ときどきは監督役になり、レシピを教えてアシスタントが作ることもあります。ずっと座って仕事をしていますから、料理をするといい気分転換にもなるんです。

■料理は仕事に役立つ

————仕事の経験が料理にも役立つと書いていらっしゃいますね。
 ええ。メニューを決めるには企画力が必要になりますし、誰が何を好きなのか、という分析力も必要です。買い物のときは予算とコストのバランスも考えなければなりません。料理は化学ですから、食材や調味料の分量計算で味が変わってきます。盛りつけや料理の出し方には美的センスや進行プランが求められるでしょう。そんなふうに考えていくと、じつはシニアだけでなく、すべてのビジネスマンにとって、料理は仕事に役立ついい訓練になるんです。

————「台所に立つことから始めよう」というお話では、妻との交渉術もアドバイスしていらっしゃいます。
 仕事一筋で働いてきた男性の中には、家庭のことは奥さんに任せっきりという人もいるでしょう。その男性がいきなり台所に立とうとしても、奥さんの抵抗に遭うことは必至です(笑)シニア世代は、奥さんとフィフティフィフティの関係になるのが理想。そのためにも、いきなり始めるのではなく、奥さんを楽にしてあげられるところから段階的に始めるのがいい。そんなアドバイスを書いてみました。
 僕はずっと「団塊」と呼ばれる同世代に向けて漫画を描いてきました。僕たちはベビーブーマーで人数が多く、時代のスポットライトが当たっているところを歩んできた世代です。その世代が今、また新たなマーケットを作っています。
 でも一方で、先も見えてきています。これからの人生を考えたとき、楽しく生きるためには健康が欠かせませんし、仕事以外の楽しさを見つける必要もある。料理は、健康維持に役立つだけでなく、食べる楽しさにつながります。旬の食材を知る楽しみもあるし、買ってきた食材をどう料理しようかという知恵も必要になります。そんな楽しさをこの本を通じてシニアの男性たちに知ってもらいたいんです。

————「ここはおいしく食べるために、こだわろう」というポイントも押さえてありますね。
 仕事のつきあいもあり、僕もさまざまなレストランや料理店で食事をしてきましたが、やっぱり旬の素材を活かした「素食」が一番おいしいなぁと思うんです。よく「最期の晩餐に何を食べたい?」という話がありますよね。美食の限りを尽くしてきた人が、「炊きたての白いご飯に塩を振って食べたい」なんて言ったりする。シニア世代は経験を積んでいるだけに、昔ほどあれこれ食べたいとは思わないでしょうし、量もそんなにいらない。本当においしいものを食べることにこだわって欲しいと思います。
 とはいえ、料理の初心者は、食材や調味料をあれこれ使うのも大変です。今は世の中に便利のものがたくさんありますから、出汁醤油や「Cook Do!」のような調味ソースをどんどん使っていいんです。「料理を楽しむ」ことを大切にして欲しいですね。

————料理が楽しくなると、人生が広がりそうですね。
 料理は、「今日は何を作ろうかな」と思うことが心の支えになるんです。誰かに喜んでもらいたいという気持ちがあると、よりいっそう楽しくなります。将来、一人暮らしになったときも、料理ができれば、友人を招いたり、近所の人と一緒に食卓を囲むこともしやすくなりますよね。

————弘兼さんの漫画の主人公だと、料理をきっかけに恋も生まれそうですね。
 『黄昏流星群』に出てきそうなエピソードも生まれるかもしれないですね(笑)
(文・角田奈穂子、写真・首藤幹夫)

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