ノーベル文学賞トランストロンメルの俳句詩

2011年10月21日

■言葉を失うことで手に入れた言葉
 今年のノーベル文学賞に決まったスウェーデンの詩人、トーマス・トランストロンメル(80)は、母国で最近は「俳句詩」で知られている。北方の叙情を感じさせる作風で、日本人にも親しみやすい。
 20代のときから俳句の定型表現に関心があり、作品を作っていた。正岡子規のことを「死の板にいのちのチョークで書く詩人」と表現したことがある。
 1990年に脳卒中で倒れ、右半身の不随と失語症という後遺症をかかえてから、表現が凝縮された俳句詩への傾倒を深めた。逆説的な言い方だが、言葉を失うことで、新しい言葉を手に入れたのだろう。
 96年の詩集『悲しみのゴンドラ』は11編の俳句詩を収め、99年にエイコ・デュークの訳でその後の詩も加えて思潮社から刊行された。初版300部で一般読者の目にほとんど触れなかった。11月上旬に重版が出る予定だ。この詩集から3編を紹介する。
 「高圧線の幾すじ/凍れる国に絃(げん)を張る/音楽圏の北の涯(は)て」
 音楽を愛する人らしい硬質の叙情。
 「蘭(らん)の花の窓/すべり過ぎ行く油槽船/月の満ちる夜」
 前衛画家の古賀春江を思わせる幻想。
 「つがいの蜻蛉(とんぼ)/固く絡んだままの姿/揺らぎ揺らいで飛び去る」
 この作品などは日本の俳句に類句がありそうだ。
 トランストロンメルの俳句詩は、5・7・5の俳句詩型を踏まえて3行詩の形をとっている。1編で完結した作品から、複数の俳句詩を連詩のように組み合わせて豊かなイメージを紡ぎだす作品まである。
 04年の詩集『大いなる謎』は45編の俳句詩を収める。18編からなる黙示録のような連詩「鷲(わし)の崖」が、「現代詩手帖(てちょう)」05年9月号でエイコ・デュークの訳により紹介されている。その中のこんな1編は、とりわけ今の日本人の心に響くかもしれない。
 「海は壁をなす/鴎(かもめ)の叫びを聞く――/わたしたちへの合図」
(白石明彦)

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