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円城塔さん「奇妙な小説書いていく」 芥川賞受賞会見

[掲載]2012年01月18日

「道化師の蝶(ちょう)」(群像7月号)が第146回芥川賞に選ばれた円城塔さん 拡大画像を見る
「道化師の蝶(ちょう)」(群像7月号)が第146回芥川賞に選ばれた円城塔さん

表紙画像 著者:円城塔  出版社:講談社 価格:¥ 1,404

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 第146回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が17日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞に円城塔(えんじょう・とう)さん(39)の「道化師の蝶(ちょう)」(群像7月号)と、田中慎弥(たなか・しんや)さん(39)の「共喰(ぐ)い」(すばる10月号)が選ばれた。円城さんは、同日夜に開かれた記者会見で「次の仕事は、(09年に亡くなった作家の)伊藤計劃の遺した作品を書き継ぐこと」と今後について語った。会見での一問一答は以下の通り。その他の受賞会見はこちらから。【田中慎弥さん】【直木賞・葉室麟さん】

  ◇

――まず円城さんから一言、今のお気持ちを聞かせて頂きます。

 この度は栄誉ある賞をいただきまして、本当にありがとうございます。大変大胆な決断だったのではないかなと思っております。私の書くものはわりと奇妙な小説だと言われることが多いのですが、その奇妙な方向でやってみろと言われたという風に認識しています。なので、奇妙な小説を書いていきます。どうもありがとうございます。

――2007年のデビューから、その後野間文芸新人賞、この間の早稲田大学坪内逍遥奨励賞、今回は3度目のノミネートで、トントン拍子に来られた印象があると思うのですが。ご自身の実感としてはどんな感じですか。

 早稲田大学の坪内逍遥大賞奨励賞というのを11月に頂きまして、あれは3回目なんですけれど、過去2回の受賞者が芥川賞と直木賞で、とらねばならないという大変怖い賞でして(笑い)。今回この賞を頂けて大変ありがたいと思っています。順調に来たかということなんですが、まだ新人…新人というにはもう5年目になるんですけど、まだまだ直さなければならないことも多いですし、ようやく少し、文芸誌に載るものと言いますか、小説として自分がやりたいものを書けるようになってきたところで(賞を)頂けた、大変いいタイミングで賞を頂いたと思います。

――ご両親にはお電話で?

 かけたんですけれど…話し中でした(笑い)。

――「大胆な決断」とおっしゃいましたが、ご自身としてはどんな決断がなされると思って「大胆な」とおっしゃったのですか?

 自分のことだけになるんですが、芥川賞というのはやはり多くの方に読まれる賞ですので、それにはまだ足りないと言われる可能性は高かったなと思いました。ただ小説というのは色々なことができるものですので、こういうものを広めてもいいのではないかと判断頂けたのではないかなと。

――ものを書くとか創造するということについて書かれていますが、「書くことを書く」とか、「フィクションをフィクションする」ことについては。

 たぶん「言葉というのは何か」という不思議なことを考えていくと、ああいう風に書いてしまうということがあります。ただそれが小説の姿として、前面に出てくるというのがいいかたちなのかというと、必ずしもそうは思っていません。それは単に私の今のところの力不足であるという感じはしています。もっと多くの方に読んで頂くためにも、そこはなんとかいろいろ考えています。

――言葉というものの不思議さを、具体的にどういうところで感じますか。

 それはほんとに素朴な話で、いまこう話している言葉はどう伝わっているのか、というような話から、どうして外国語は存在しているのかとか、言葉がわかれているのであればどこでわかれたのか、始まったんであればどこで始まったのか、とか本当に日常的に素朴に感じる不思議さですね。

――円城さんはこれまで純文学でありSFであり、幅広い活躍をされてきたと思うのですが、今後どのような作品を書かれていこうと思っていらっしゃいますか。

 いろいろやっていければとは思っているんですけど、とりあえず次なんですが、私はデビューして今年で5年目になるんですけど、ほぼ同時期にデビューしまして3年前に亡くなりました伊藤計劃という大変力のある作家がいたんですけれど、伊藤計劃が遺した冒頭30枚ほどの原稿がある。それを引き継ぐということは、彼の書くようには書き継ぐことはできないのですが、完結させるというのをご家族の了承も得て、この3年間やってきました。そろそろ終わりそうです。なぜお前が、という批判は当然あると思うんですけれども、次の仕事としてやらせて頂ければと思っています。

――今日は奥様と一緒に待つとうかがっていましたが、受賞を受けて、奥様からはどんな言葉がありましたか。

 特に(笑い)。事前に体調を崩したこともありまして、ホテルの部屋でニコニコ動画を観ながら待っていたんですけれど、「結果が出ました、貼り出されます」っていうときに「電話来てないよ」って言ったら直木賞で、「そうか直木賞、早いな」とか言ってたら電話が鳴ったので、「今ニコニコ観てるのに」って(電話を)とったら「おめでとうございます」って言われて。よくわからないうちにバタバタと。なのでちょっと落ち着いて「よかった」みたいな感じです。

――ニコニコ動画なんですが、おめでとうございます。生中継してるんですけれども、今日の選考委員の石原都知事なんですが、ネット上でも芥川賞についてのコメントも色々出ているのをご存知だと思うんですけれど、それについてどういう風に受け止めてらっしゃいますか。

 どういう風にというのは何でしょう。いや、石原さんの会見は動画で観ましたが、動画で観ると別に石原さんらしい会見。あれは都知事としての会見なので、質問があったから答えたという以上のものではなく。特に。あの、ちょっとそういう作品ばっかりだよ、と言った後に「あと1作はまだ読んでないんだけどね」と言ってるんですよね。だからあれはほんとに気軽な会話だと思うので。ちょっと報道が先走ったのではないかと思います。

――国内、国外で何人か、影響を受けた作家や好きな作家は。

 安部公房さんですね。とても大きな存在としていらっしゃると思います。安部公房さんの系譜というか、全然僕も同じような系譜を書いているわけではないんですけれど、ちょっと外れた、という風にみなされがちなものでは、安部さんが一番です。

――伊藤計劃さんは同時期のデビューでご友人だと思うのですけれど、円城さんにとってどういう存在であるのか、ということと、奥様と仕事の話はしないと伺っていますが、今回も受賞作は(妻の)田辺(青蛙)さんは読まれていないのでしょうか。あるいは決まってから何か。

 後ろの質問から答えますと、あまり聞かないことにしているので、こっそり読んでいるかもしれませんが、なるべく教えてくれるなという風には言っています。日々の暮らしのことなので、横にいつも読んでいる人がいるとやはりつらいので。
 伊藤計劃のことですが、先ほどタイトルを言い忘れてしまいましたが、伊藤計劃の『屍者の帝国』という作品です。友人だったのかと言われると、あまりにも早い、短い期間でしたので、他にももっと、昔から付き合いのあった方とか友人だった方とかもたくさんいらっしゃるので、私が友人というのは少し、あれなんですけれど。大変優れた書き手で、大変僕に影響を与えた作家です。大変、残念でした。

――選考委員の黒井千次さんが「よくわからなかった」とおっしゃっていたのですが。一般の方にもわかるように、あらすじを言うとすれば。

 読めないという方がいらっしゃるのは、それは本当にもう、私の力不足と言うしかなく。より広い方に読まれるために、その方向を探したいと思っています。はい、精進いたします。
 あらすじなのですが、あらすじはまあ、着想をどう捕まえるかというお話を書こうと思いまして。そこにナボコフとか色々、モチーフは出てくるんですけれど。着想でも記憶でもいいんですけれど、あらかじめ知っていると着想する必要はないんですよ。それはどこかから降ってこなければいけないんですけれど、降ってくるって何、っていう話がありまして。そういう自分でもわからないけれども、周りの環境で決まっていくであろう、そういうものが確実に自分の中に入ってきてしまう、そういう状況を書くとどうなるのかな、という話です。あらすじではなく、なんだかどうして書いたのかという話になってしまっていますが(笑い)。
 あらすじは別段、いろんな人が出てきて旅をする話、です(笑い)。

――ハイブロウな話と俗っぽい話が出てくる。ベストセラーでもうける話のように、知識人ではない俗っぽい人が出てきて面白かった。ただ選考委員の黒井千次さんがおっしゃったように、科学現象のようなところがよくわからなかった。それはオムニバス的に、自分が面白いところだけ読んでいくという読み方で読んだんですけれど(笑い)。俗っぽいユーモラスさには関心があるんでしょうか。そこは安部公房さんと通じるなと感心したんですが。

 まず小説ですので、好きに読んで頂ければいいというのがあるんですが。拾い読みで、どこか笑えるところを拾って頂けるのが一番ありがたい。どこが笑えるかというのは人それぞれですので。拾ってもらえるようにたくさん、あちこちにまいていくという側面もあるので。楽しんで頂けるところを楽しんで頂いて、忘れた頃にまた読んで頂ければと思います。

――先ほどのお話でも「小説としてやりたいものができた」とか、先週の記者会見のときにも「今までよりちょっと違うところに行けたかな、という実感がある」とおっしゃったと思うんですが、具体的にはどういう実感でしょうか。またこれから小説を書く上で、目指すところとか、追求していきたいところがあれば教えてください。

 何が自分で変わった気がするかというと、僕はかっちり構成を決めてから書くことが多かったんですけれど、最近そこからずれても書けるらしいということに気付きまして。それは、書いている間に、自分の中で問いをみつけて答えを探して、自分の中で答えが見つかったら終えるというような、最初から問題が決まっていて答えが決まっているという形ではなく、書けるようになっってきたのかな、という気はしています。
 なので、書き方がそう変わっていってはいるので、それは何なのかを考えるというのがどうしても癖なので、小説を実際に書かないと考えられないようなことを、考えられれば面白い。そういうのがあるのかどうかわからないんですけれど。まああると楽しそうなんですけれど。

――黒井(千次)さんが、今回の2作品の受賞を受けて、田中さんのはすごく古めかしい小説で、円城さんの方は、新しい、現代的な知的な小説だという風におっしゃっていたんですけれど、円城さんご自身は先ほど「奇妙な小説」とおっしゃいましたが、新しいと言われることについて、また今回対照的な田中さんと同時の受賞となったことについては

 今回2人で、田中さんと一緒に頂けたということは、バランスと言えばあれなんですけれど、大変ありがたいと思います。こんなことを言ってしまったらあれですけど、右を守る、左を守るというようなイメージは若干あります(笑い)。新しいかと言われますと、いわゆる文学の新しさというものは何かという話になりまして、実験的なものを書かれている方というのは、100年前や200年前からいるわけなので、本当に新しいものを出すということは大変難しい。もうそれすらも古くなっていくという状態はもちろんありますのであれなのですが、そのへんは、非常に難しいバランスを何か探していかなければいけないということで、迷うところではあります。なので、まだ迷っています。

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