〈本の舞台裏〉方丈記を自在に訳す

2012年06月10日

 大火に竜巻、飢饉(ききん)に大地震……平安末期の天変地異を、鴨長明が『方丈記』に記して800年。東日本大震災の記憶も生々しい今年は、災害の文学として読みなおしたりした現代語訳が相つぐ。
 作家の新井満は高校生のとき、故郷の新潟市で新潟地震に遭ってから全文を読み、元暦(げんりゃく)の大地震の描写に心引かれた。『自由訳 方丈記』(デコ)では鴨長明の隠棲(いんせい)を自由への脱出ととらえ、「D・I・Yのシンプルライフ」など20章に分けて自在に訳している。
 仙台市で東日本大震災に遭った作家の松島令(りょう)も、被災後に友人から贈られた『方丈記』に心を慰められた。『平成「方丈記」』(言視舎)では、自らの過酷な被災体験と『方丈記』の記述とを重ねあわせながら、自由訳を試みる。
 もっともくだけた訳文は、歴史学者濱田浩一郎の『【超口語訳】方丈記』(東京書籍)。「河をじっくり眺めてみよう。するとどうだろう。あら不思議」と始まる。『方丈記』は栖(すみか)の文学でもある。人と栖との悲劇的な関係を、濱田は六本木ヒルズから刑務所へ移った堀江貴文・元ライブドア社長を例に説明するなど、『方丈記』を徹底して現代に引きよせる。
 鴨長明が現代人だったら山荘に引きこもってブログを書いたのでは。こう考える国文学者の小林保治(やすはる)は編著『超訳 方丈記を読む』(新人物往来社)でそのブログのイメージを念頭に訳した。「ゆく河の流れは絶えずして……」から始まらない、文字通りの超訳だ。
 原文は400字詰め原稿用紙21枚半と短く、4年前が千年紀だった『源氏物語』に比べたら古語や語法も平易で読みやすい。日本の古典でも屈指の名文を原文で読むには、昨年11月に出た浅見和彦校訂・訳『方丈記』(ちくま学芸文庫)が重宝だろう。
 

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