〈本の舞台裏〉認知症の母との時間

2012年09月02日

『ペコロスの母に会いに行く』から (c)岡野雄一/西日本新聞社

 62歳まで無名だった男性の初めての著作が、注目されている。『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞社、1260円)だ。長崎市の漫画家岡野雄一さんが、認知症で施設で暮らす母(89)と、禿(は)げて小タマネギ(ペコロス)そっくりの中年になった自分の、おかしくて切ない日常を描く。方言の会話は味わい深い。
 もとは今年1月に自費出版で発行した500冊。地元の書店に並ぶと売れ行き好調で、全国出版が実現した。来夏公開を目指して、映画化の準備も進む。
 岡野さんは、離婚した40歳で幼い息子を連れて故郷に戻った。以降、両親と同居。12年前に父が他界後、母に異変が現れ、その姿を、当時編集長をしていたタウン誌に毎月書きためていった。やがて症状は進み、グループホームへ入れざるを得なくなった。
 岡野さんが面会すると、母は、生前暴力に悩まされた亡き父が穏やかな顔で訪ねてくる、と明かす。布団の縁を握って両手を動かす理由は「息子たちの服の繕い物」。そんな情景の描写は、貧しいからこそ寄り添って生きた「家族の時間」を読み手に思い起こさせる。

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