ものづくりに民主化の波 クリス・アンダーソンさん

2012年11月13日

雑誌「ワイアード」の編集長、クリス・アンダーソン氏=東京都港区、西田裕樹撮影

 情報社会の次は、「ものづくり」の時代がやってくる――。新著『MAKERS(メイカーズ)』(NHK出版)でそう説くのは、米誌「ワイアード」編集長でベストセラー『ロングテール』『フリー』で知られるクリス・アンダーソンだ。先週来日したIT界の論客に、新しい時代のイメージを語ってもらった。
 「メイカーズ」は元々、工作を趣味で楽しむ人たちを指す言葉。そんな人々が自作を発表する雑誌が2005年に創刊されたのを機に、米西海岸から「メイカームーブメント」が広がってきた。「ものづくりの民主化が起きているのです」
 自宅のパソコンで設計図を作り、インクジェットで樹脂を塗り重ねて自動的に立体物にする3Dプリンターやレーザーカッターを使って試作品を作る。
 ただ作るだけではなく、それを売ってビジネスになることが重要だ。おもちゃの「レゴ」好きのある「メイカー」は、正規版にはない「兵器」などを自作してネットで発表。ファン向けの販売につなげた。別の「メイカー」は個人事業者向けに、スマートフォンにつけて簡単にカード決済できるリーダーを試作した。
 「小さな市場が草の根で広がり始めている」。生産個数は多くても1万個ほどのニッチな市場を狙う。簡単に製品を販売できるサイトの存在も広がる一因だ。
 拠点は、メイカースペースなどと呼ばれる共同の工房。欧米を中心に全世界1100カ所以上ある。日本にもでき始めた。「ジムに通う気分で工房に行き、協力してもらったり、助言をもらったり。新たな人の結びつきも生まれています」
 工作からビジネスへ。実は、自身がそれを実現した「メイカー」の一人だ。自宅で始めたおもちゃの無線飛行機作りをきっかけに、07年に無人機を作る会社を立ち上げた。「編集者がたった数年間でものづくりを起業できる。10年以上前だったら不可能だった」
 アンダーソンは「3番目の産業革命が始まった」と表現する。労働力や機械を大規模工場に集約して生産力を向上させた第2次産業革命と違い、誰もがツールを持つ新しい家内工業の時代だ。「情報やツールを平等に使えるウェブ空間の特徴が、産業のあり方にも適用され始めている」
 多様な意見やものの見方を育んできたネット文化も原動力になったという。
 ネットの歴史を振り返ると、ブラウザー「ネットスケープ」、音楽ファイルを利用しやすくしたMP3。そして、動画や意見を発信しやすくしたユーチューブやツイッター……。「個人の多様なあり方を尊重する空間が作られてきた」
 自身の共同経営者はネット上でアドバイスしてくれたのを機に声をかけた20代のメキシコの青年だ。起業を決めるまで会ったこともなかった。「大企業に所属している必要もなければ学歴もいらない。自信と意欲とクレジットカードがあれば始められます」
 近くワイアード編集長を辞め、経営に専念する予定だ。「大量生産型のものづくりはなくなりません。ただ『独占』は終わる。特定の国や企業が豊かになるのではない。アイデアがすぐに起業につながり、豊かさを個人が生み出せる時代なのです」
     ◇
 クリス・アンダーソン 1961年英国生まれ。「ネイチャー」「エコノミスト」勤務を経て、2001年から「ワイアード」編集長。著書に、ネットビジネスの収益のあげ方を説明した『ロングテール』やネット上の無料サービスと課金の関係を論じた『フリー』など。

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