鏡花の「化鳥」を絵本に 独特の画風で幻想性を演出

2012年11月13日

「化鳥」の絵本は白い表紙に銀の文字が走り、美しい装丁に仕上がっている=金沢市下新町

 泉鏡花の初期の幻想小説「化鳥(けちょう)」の絵本が国書刊行会から刊行された。京都市のイラストレーターが、独特の画風でその世界観をよみがえらせた。「鏡花作品を知らないという人にぜひ手にとってほしい」と、泉鏡花記念館の担当者も期待する。
 白や朱色、緑など鮮やかな色彩のイラストに、大きな文字で縦書きの文章。文章は鏡花の原文を抜粋する形でそのまま引用した。本の末尾には「化鳥」の全文が載っている。
 この絵本は、泉鏡花文学賞制定40周年を記念する事業の一環で出版された。
 金沢市出身で、日本を代表する幻想作家の鏡花は、「天守物語」「夜叉ケ池」の舞台や映画でも有名になり、県内では名を知らない人はほとんどいない。一方で、明治時代に書かれた文語体が多いため、作品そのものを読んだことのない市民も増えているそうだ。
 「化鳥」は口語体作品。「子どもが親しめると同時に、大人の人にも、鏡花作品を読むきっかけにしてほしい」と、記念館の学芸員、穴倉玉日(たまき)さん(39)はいう。
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 イラストを手がけたのは、瑞泉寺(京都市)の僧侶でもある中川学(がく)さん(46)。広告や小説の挿絵などを描いてきた。鏡花作品の一つ「龍潭譚(りゅうたんだん)」の絵本を自費出版したこともあり、昨年は泉鏡花記念館で原画展も開いた。その縁で今回、イラストの依頼を受けた。
 鏡花作品は祖父のお気に入りで、名前になじみはあった。中学生のとき、映画「夜叉ケ池」を見たとき、その幻想世界を絵にしたいと思った。漫画家をめざしていたので、漫画で描こうとしたが、鏡花の世界を描ききることはできなかった。
 大学卒業後、大手情報サービス会社に就職した。広告を担当し、仕事でイラストを描くようになった。30歳のときに退職し、実家の寺で住職の父の手伝いをしながら、イラストレーターとしての道を歩み始めた。
 鏡花作品を描くときは、幻想性を演出するのに苦労するという。
 「化鳥」では、この作品を象徴する存在ともいえる「はねのはえたうつくしいねえさん」をどう描くか。「イラストで読者の想像力を限定させないように、と考えた」。左右見開きの黄色いページいっぱいに両翼と白い腕を描き、顔は一部分しか描かなかった。
 約1年かけて、27枚の絵を描き上げた。鏡花ファンにどう思われるか気になるが、「鏡花初心者向けの入門書としてみてくれれば」
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 絵本はB5判71ページ、1995円。泉鏡花記念館(金沢市下新町)のほか、県内外の書店で販売している。問い合わせは市文化政策課(076・220・2442)へ。
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 〈化鳥〉 1897年、泉鏡花が23歳の時に発表した作品。橋番をする母と2人で暮らす少年・廉(れん)が主人公で、人間を動物のように見たてて物語は進む。ある日、廉が橋から川に落ち、おぼれかけたところを、「はねのはえたうつくしいねえさん」に救われる。廉はその人にまた会いたくて1人で鳥屋や林、山に探しに行く。母親の価値観にとらわれていた廉が内面の成長を遂げようとする。

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