音楽の奇才発掘! 「レイモンド・スコット・ソングブック」

[文]依田彰  [掲載]2013年03月13日

1938年、レイモンド・スコット五重奏団(実際は6人)。ドラムのジョニー・ウィリアムスは、「スター・ウォーズ」など映画音楽で知られるジョン・ウィリアムスの父 拡大画像を見る
1938年、レイモンド・スコット五重奏団(実際は6人)。ドラムのジョニー・ウィリアムスは、「スター・ウォーズ」など映画音楽で知られるジョン・ウィリアムスの父

1957年、ドロシー・コリンズとレイモンド・スコット。自身の電子音楽スタジオ「マンハッタン・リサーチ」で
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1957年、ドロシー・コリンズとレイモンド・スコット。自身の電子音楽スタジオ「マンハッタン・リサーチ」で

レイモンド・スコットが開発した電子楽器「スコット・クラヴィボックス」 拡大画像を見る
レイモンド・スコットが開発した電子楽器「スコット・クラヴィボックス」

1940年、吉本興業所属の谷口又士と東京吉本スヰングショウの公演パンフ。「トイ・トランペット(玩具の喇叭卒)」「トワイライト・イン・ターキー(土耳古風景)」の曲名が確認できる 提供=岡田崇
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1940年、吉本興業所属の谷口又士と東京吉本スヰングショウの公演パンフ。「トイ・トランペット(玩具の喇叭卒)」「トワイライト・イン・ターキー(土耳古風景)」の曲名が確認できる 提供=岡田崇

監修者の岡田崇氏とレイモンド・スコットの息子スタン・ワーナウ氏。2011年、ニューヨークのワーナウ邸で 拡大画像を見る
監修者の岡田崇氏とレイモンド・スコットの息子スタン・ワーナウ氏。2011年、ニューヨークのワーナウ邸で

 日本の熱心なファンが7年を費やして自主制作したCDボックス『レイモンド・スコット・ソングブック』が、日本のデイジーワールド/リル・デイジーから発売された。
 米本国ですら忘れられていた音楽家の埋もれた音源を現地で発掘し、国内外の多彩なミュージシャンにもカバー演奏を新たに録音してもらうなど、歳月をかけた分、軽妙奇抜な楽曲そのものの面白さはもとより、100ページにおよぶブックレットも読みどころ満載で、マニアックな音楽愛好家や映画ファンらの好奇心をくすぐりそうだ。

表紙画像
CDボックス『レイモンド・スコット・ソングブック』 レーベル: Daisyworld / Li'l Daisy 5250円

■モンドの先駆者
 レイモンド・スコット(略称レイスコ)は主に1930~40年代に注目されたアメリカの作曲家・ピアニストで、その作風は「音楽上のシュールリアリズム」ともいわれたという。とりわけ「パワーハウス」「トイ・トランペット」のように、五重奏団で展開するトランペット、サクソフォン、クラリネットを中心に構成する曲作りは、ジャズなど内外の軽音楽界にも少なからぬ影響を与えたようだ。
 37年の映画「アリババ女の都へ行く」で使われたという「トワイライト・イン・ターキー(トルコの黄昏[たそがれ])」のアラビア風のエキゾチックなメロディーは印象的だ。50年前後には初期作品14曲が、「進め三月ウサギ」などワーナー・ブラザーズの117本のアニメ映画に繰り返し使われたという。
 レイスコの音楽は、このように初期作品がアニメで流布したことから「カートゥーン・ミュージック」に分類されることもあるようだが、歴史的背景から見ると、ムード音楽など宇宙開発時代の米国で広まった魅力的な音楽を意味する「モンド・ミュージック」の先駆者と位置づけられるようだ。
 そんな面白おかしくも洗練されたこれらの曲を、どこかで耳にした向きも多いのではないか。コメディー映画「ファニー・ボーン/骨まで笑って」の中の「ザ・ペンギン」は心躍るスイング・ジャズだ。
 この映画でこの曲に出合い、今回テクノ風にカバーした細野晴臣は、ダンスミュージックだった30年代のジャズと比較して、「常軌を逸した速いテンポに、技巧を要する器楽的な和音と旋律。もはや踊れる音楽ではありません」「クレズマー・ミュージックに通じるユダヤ的な色が濃い」などと専門的に分析していて興味深い。

■電子楽器の発明家
 さらにレイスコは、「電子楽器」をいちはやく発明した電子音楽のパイオニアだったという。40年代から電子機材の開発に取り組み、60年代には電子楽器の販売にも着手。レイスコが開発に没頭する一方、最大の理解者だった妻で歌手のドロシー・コリンズは舞台人としての道を歩む。2人の離婚にいたる知られざるレイスコの一面が紹介される。
 後年、ドイツのクラフトワークや日本のYMOなど、コンピューター・ミュージックは世界中で花開くが、レイスコは88年に脳卒中に倒れ、94年に死去。2008年は生誕100年に当たったが、ファン以外、さほど注目されることもなかったようだ。
 そんなレイスコも、日本では一時期人気があったようだ。ブックレットでは吉本興業や宝塚などの公演で演奏された戦前の記録など、レイスコと日本の音楽事情も丁寧に追っている。また、30~50年代の音楽雑誌や映画雑誌の関連記事や広告なども面白く、そこには野口久光、油井正一ら往年のジャズ批評家の名前も見える。
 ジャズ批評の草分けのひとり瀬川昌久は、戦前に聴いたレイスコ作品を回想しつつ、戦後、日本のレコード会社に「18世紀のサロンにて」と「ジャズのメヌエット」をリリースするように進言したと明かすが、戦後の自由な雰囲気が伝わってくる。

■未知の音楽は未来の音楽
 本作品集の監修者で、解説、デザインも手がけたミュージシャン(ヴァガボンド)の岡田崇さん(44)は、レイモンド・スコットの魅力を次のように語っている。
 「出会ってから20年になりますが、知れば知るほど謎の深まる存在です。最初に驚かされたのはその譜面を使わない作曲法です。1930年代の彼はピアノの周りに五重奏団のメンバーを集め、ハミングやピアノで各パートのフレーズを指示していき、繰り返されるセッションを全てアセテート盤に記録しました。それらを持ち帰り、気に入ったフレーズをパッチワークのように再構成して作曲していったのです。
 セッション中に気に入ったアドリブのフレーズは全てメロディーの中に取り込まれ、完成した楽曲の中でのアドリブは許しませんでした。完成後も譜面は使わないので、身体に全ての構成をたたき込まないといけない。つまり、目で譜面を追って演奏するのと、譜面を使わないのとでは演奏にハッキリと違いが出る。まるでミュージシャンを機械のように扱い、正確な演奏を要求するわけですが、そうすることでメカニカルな演奏の中に人間特有の〝揺らぎ〟を持たせ、本来の意味でのスイングを表現しようとしたのだと思います。
 この人間固有の〝揺らぎ〟は、60年代以降の彼の電子音楽の時代にも受け継がれています。ボクにとって、未知の音楽は未来の音楽です。レイモンド・スコットにはまだまだくめども尽きぬ魅力が隠されています。そして、21世紀の新しい音楽を生み出す人が現れることを、スコット本人も待っていると思います」

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