百田尚樹さん「村上春樹さんは意地が悪い」 本屋大賞受賞会見

2013年04月10日

授賞式で書店員と喜びを分かちあう百田尚樹さん

気さくな人柄が会場で大人気

「海賊とよばれた男」に書店員がつけたPOP

 全国の書店員が選んだ一番売りたい本「2013年本屋大賞」に、百田尚樹(ひゃくた・なおき)さん(57)の「海賊とよばれた男」(講談社)が選ばれた。4月9日に開催された授賞式では、書店員と受賞の喜びを分かち合った。放送作家として長年培ったユーモアか、そのスピーチに会場は笑いに包まれた。

<受賞スピーチ>
 みなさんありがとうございました。
わたしは作家になって7年ですが、本屋大賞は初めていただいた賞でして、文学賞で最高の賞です。直木賞なんかよりはるかにすばらしいです。
 受賞は自分の実力とは思ってなくて、「海賊とよばれた男」のモデルとなった出光佐三、それを支えた出光興産、昭和20年に戦争に負けて、日本をこれから復興させていこうとした多くの人たちの生き方が本当にすばらしくて、なんとか忠実に伝えたいと思って書いただけです。海賊とよばれた男たちを一人でも多く読者に伝えたいという思いで、多くの書店員のみなさんに選んでいただいたのだと思います。ほんとにありがとうございました。感無量です。
 さきほど(本屋大賞実行委員会理事長の)スピーチで、本屋大賞は受賞してからがスタート、そこから書店ががんばって売るんだということですが、間の悪いことに、12日に村上春樹さんが新刊を出されます(笑い)。もしかしたら(自分の本は)歴代の本屋大賞で一番売れない本になるんじゃないかと心配です。文春さんも村上さんもかなり意地が悪い(会場爆笑)。わたしが勝負できるのは10、11日と2日だけですので、なんとかがんばります。
 この授賞式では書店員の方と是非ご交流をと言われておりますが、わたしは小説を書くより「交流」の方が得意ですので、みなさんよろしくお願いします。今日はなんでもサービスします。趣味でマジックをやってまして、人前ですることはめったにないんですが、今日はナンボでもやります。
 文学賞にはいろいろあります。けれども、こんなこといったらええんかわからないけど、出版社が主催する賞というのは、いったいこの作品はだれが決めたんや? 神の声(が降りたか)のように発表されるんですが、本屋大賞は読者の顔をいっつも見ておられる書店員の方が、つまり文芸の世界で一番読者に近い方が選んでくださる賞なので、その意味で別格の賞やと思います。
 もちろんどんな賞でも毀誉褒貶があると思います。本屋大賞もその例にもれないと思いますが、過去9回(の受賞作)はいろいろあるにせよ、すべてその年の「小説界の顔」やと思います。そのすばらしい作品の中にわたしの本を選んでいただき、ありがとうございました。

<一問一答>
――さきほど(スポンサーの)ユーキャン特別賞で(好きな賞品を2つ選んでいいと言われて)通信講座の「囲碁講座四段コースプラス対局ソフト『金剛碁明王』」と「日本大地図全3巻」を選ばれましたが、なぜ選んだのですか?
 わたしは30歳すぎぐらいまで仕事もせんと遊んでたんですが、唯一の趣味がマジックと碁で、昼過ぎに碁会所にいって一日じゅう碁ばっかり打っとったことがあったんです。実はわたしは囲碁アマ六段です。ちょっとすごいでしょ(笑い)。しかし基礎がなってないことがあって、四段から基礎を勉強しようかなと。
 日本大地図は、これすごいですね。立体地図とか俯瞰図とかいろんな地図がありまして、この地図1冊あったら暇なときには日本旅行ができるかなと思って。

――囲碁好きの書店員との対決もしていただきたいと思いますので…
 なんでもやります。

――受賞の感想は?
 いや、もうびっくりですね。(何度も本屋大賞にノミネートされながら)授賞式に出席したのは初めてなので、これほどすごいとは。感激です。

――受賞作の映像化の話は来てますか?
 直接は聞いていませんが、出版社にはドラマ化などの話がいくつも来ていると聞いています。

――さきほど村上春樹さんの話がありましたが、(売り上げで)勝負のほうは?
 いや、もう勝負になりません。村上春樹さんは怪物的に売れますんで。ただまあ、そんなに売れる本をなにもここ(本屋大賞)にぶつけんでもええやろうと、はい。ただ、村上春樹さん(の新刊)とか本屋大賞とかいっぺんに集まると書店全体が盛り上がることもありますから、それもかえってええかもしれません。

――改めて書店員さんに一言
 ほんとにありがとうございます。本屋大賞は、(投票する書店員が)6対4ぐらいで女性が多いので、過去の受賞作はどうしても女性の好みというか、ちょっと軽めのいい意味の甘めの作品が多かったように思います。わたしの本はガチガチの硬派なメーンが60年も前の話で、しかもテーマが石油の歴史経済小説。こんな本はまず(賞を)取らんだろうと思っていました。この本を選んでくださった本屋の方には、ほんと感謝ですね。

――東日本大震災で日本が暗い状況になったことが、この本を書いたきっかけになったんでしょうか?
 絶対そうです。震災後、しばらく小説家として何を書けばいいんだろう、どういう物語を世に問うべきなんだろうと悩んでいました。ちょうどそのころに日章丸事件(昭和28年に出光興産が大英帝国と国際石油資本の支配に挑んだ事件)を知りました。戦後の出光の死にものぐるいの生き方、もちろん出光だけじゃないです。昭和20年代に日本が戦争で壊滅的に痛手を受け、そこからわずか20年でアメリカに次ぐ世界第二の大国に復活した。
 この生き方を今のニッポン人に一人でも多く伝えたい。いま現在生きているぼくらにも、その時代の父や祖父のDNAが根づいているはずなんでね。我々はあのどん底から(彼らが)築きあげたこの豊かな時代にあぐらをかき、豊かさをほおばっているだけではだめだ。ぼくらも次の世代の自分の子どもや孫たちに、日本(の未来)を送っていかなきゃいけないという思いがありました。
 バブル崩壊、リーマンショックで経済が右肩下がりになっていった。そのとどめに東日本大震災があって、日本全体が一瞬自信を失った状態になりましたが、「ちょっと待ってくれ、そんなもんじゃないぞ日本は」と。68年前はもっとひどいところから日本はきっちり、そして見事に立ち直った。ぼくらはそれをやってのけた人たちの子どもであり孫なんだ。そして必ず(人々は)立ち上がれるという思いで、この本を書きました。

――他の候補作のなかではどれが強いと思いましたか?
 やっぱり「64(ロクヨン)」(横山秀夫・総合順位2位)じゃないかと思ってました。横山さんは病気で倒れられて、7年ぶりに非常に力強い本を書かれました。個人的には横山さんに(大賞を)とっていただきたいぐらいの思いでした。

――これまで3度本屋大賞にノミネートされましたが、今回は何が違って受賞に至ったと思いますか?
 作品の内容はともかく「今書かねばならない」と初めて使命感を覚えて書いた作品なんで、僕のなかでは特殊な作品でした。もしかしたら、それが書店員の方に伝わったのかなと思います。
 ただ、自分が受賞するとは思ってませんでした。候補になったときから意外でした。(作品が)上下巻ですので高いんですよ。2冊あわせて3300円しますんでね、そうするとやっぱりねえ。しかもこの表紙ね、帯をめくるとこのセピア色の復員服の写真で……。まあ若い女性は「これは私の読む本ではない」と思いますよね。わたしも表紙を見た瞬間に、「うん、これは売れないな」と確信を持ちましたんで(笑い)。

――受賞を伝えたい人は?
 もちろん家族は喜んでくれますが、この作品は講談社の加藤晴之さんという編集者があったればこそ生まれたので、後でゆっくり喜びを分かち合いたいと思います。
 最初のきっかけは知り合いの放送作家から日章丸事件のことを聞いて、その事件におどろいたことです。そのときにはまだ小説にする気はなかったんですよ。たまたま加藤さんにその話をしてそれから何カ月か経ったころ、加藤さんから家に段ボール箱いっぱいの資料が送られてきました。「あの話がおもしろかったのでとりあえずこれぐらい資料を集めときましたので、もしよかったら」と。
 その資料がまさに宝の山で、読んでいるうちに「これは今書かねば」と思いました。書き出してからも、加藤さんにはいろいろな形で助けていただきました。

――執筆中に体調を崩されたと
 もう元気です。回復するのに半年かかったんですけど、えらそうなこと言うて自慢にもならないですけど、胆石発作で3回救急車で運ばれました。1回目に一刻も早く手術が必要だと言われましたが、ちょうど執筆が佳境に入ってるときだったんで、入院の10日間がもったいなくて。がんばった末に2回また運ばれまして、最終的には入稿したあとに手術しました。
 手術してから1カ月ぐらいお腹からずーっと血が流れてましたが、その間ずっとゲラの直しで、もう血ィ流しながらやりました。いやあ、血ィが流れるというのは大変ですね。女性のみなさんは大変だと思いました。すいません、しょうもない話で(笑い)。

――放送作家の活動も続けているのでしょうか?
 「探偵!ナイトスクープ」(朝日放送)は25年間やってます。これからも続けます。あれは日本一の番組です。

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