「中二病」をこじらせて……キンドルで話題の『架空の歴史ノート』著者に会ってみた

[文]林 智彦  [掲載]2013年05月31日

著者の設楽陸さん 拡大画像を見る
著者の設楽陸さん

「人類皇帝」 拡大画像を見る
「人類皇帝」

作中世界の階層構造 拡大画像を見る
作中世界の階層構造

「不沈都市トノス」 拡大画像を見る
「不沈都市トノス」

「グリーンベレー族」 拡大画像を見る
「グリーンベレー族」

「湾中海大海戦」 拡大画像を見る
「湾中海大海戦」

表紙画像 著者:いしたにまさき、境 祐司、宮崎 綾子  出版社:インプレスジャパン

■自分を取り戻すための「ノート」
 著者の設楽陸さんは、現在28歳。2008年に美大を卒業した後、アルバイトをしながら現代美術の制作を続けている。前出のように、他の作品は、迫力のある現代絵画が中心だ。なのに、どうして「ノート」なのだろうか。

 「大学3年から4年にかけて、創作に本気で取り組むようになって、『自分は何がしたいのか、自分は何者なのか』を突き詰めて考えざるを得なくなったんです。その時、ふと思い出したんですね。そういえば、小学校のときは、延々と『ノート』を描いていたな、と」


 「中二」ではなくて、小学生のノートだったとは。それでは、その時のノートをそのまま出版したということなのだろうか。

 「実は中学にあがるときに、その時のノートは、全部捨ててしまったんです。なんか恥ずかしい気がして。中学から大学にかけては、そういう歴史は全部忘れたふりをして、普通にサッカーをしたり、お笑い番組を見て面白がったり、周りの話題に合わせるようになりました。ほんとうは、『みんなと同じ』ことを考えたりやったりするのは、とても苦手だったんですが。

 ところが、少し大人になってみて振り返ると、小学校のとき、熱中して描いてたノートが、やっぱり『自分』なんですよね。僕は学校の勉強はほんとに苦手で……特に数学とか理科は悲惨だったんですが、歴史と図画工作だけは得意で、図書館で歴史の本を読みあさっては、ひらすら架空の大国、架空の歴史、架空の地図、戦争や法律について、ノートに書き込んでいました。

 将来のことを考えたりしたときに、あの『ノート』にもう一度帰ってみたくなって、改めて書きだしたんです。すると、際限なく書けるんです。もちろん、絵や彫刻なども大事な表現手段なのですが、僕にとって『ノート』は、もっと原点に近い表現手段だった」



 「ノート」の数は月日がたつにつれて増えていったが、他人に見せたり、発表したりするつもりは当初なかった。ところが、2012年、中京地域の現代美術の拠点にもなっている名古屋市美術館の展覧会への作品出展が決まったことがきっかけを作った。

 「ノートの噂を聞きつけた学芸員さんから、『ぜひ作品として出品してほしい』と言われたんです。最初はちょっと尻ごみしたんですね。もしかしたら笑いものになるだけじゃないか、と思って。でもどうしても一度、世に出してみたくて、展示することにしました。さらに出展用のコピーをとるついでに、スキャニングもしていただいたんです」

 展覧会の会場では、絵画や彫刻の作品のそばに、8冊のノートが置かれた。何の説明も添えなかったにもかかわらず、来場者の反応は、思いのほか良かったという。
 確かにページをめくっていると、甘酸っぱくも恥ずかしい、幼いころの思い出がよみがえる。見たいような見たくないような、そんな不思議な感興がわいてくる。正義と悪が複雑にからみあい、清濁あわせのむような世界観は、善悪の境目が未だ不鮮明な子供の価値観を、生のまま提示したような印象を与える。

 「ああ、なんだみんな同じような経験があるんだな、わかってくれるんだな、と感じました」

 来場者の反応に励まされた設楽さんの次のチャレンジが、電子書籍だった。

 「2010年ごろから『電子書籍元年』と言われ始めて、ひょっとしたら作品発表の手段として使えるんじゃないか、と思っていろんな本を読んで勉強していたんです。でも画像をスキャンする手間を考えると、なかなか踏み切れなかった。それが、展覧会のスキャンデータを使わせてもらえることになったので、これはぜひ、一度電子書籍として刊行してみようかと」



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