生活保護、ひとごとじゃない 実態描いた漫画、単行本に

[掲載]2014年01月23日

周囲からの冷たい視線にさらされる主人公=「陽のあたる家」から(C)さいきまこ(フォアミセス) 拡大画像を見る
周囲からの冷たい視線にさらされる主人公=「陽のあたる家」から(C)さいきまこ(フォアミセス)

主人公の長女がスピーチコンテストで全校生徒に生活保護制度の意義を語りかける=「陽のあたる家」から(C)さいきまこ(フォアミセス) 拡大画像を見る
主人公の長女がスピーチコンテストで全校生徒に生活保護制度の意義を語りかける=「陽のあたる家」から(C)さいきまこ(フォアミセス)

表紙画像 著者:さいき まこ  出版社:秋田書店 価格:¥ 756

 あなたは生活保護を否定しますか?――。生活保護を受けることになった家族4人の姿を描いた漫画が単行本として出版された。制度への厳しい目が広がるなかで、「多くの人に実態を知ってほしい」という作者の思いが、静かな共感を呼んでいる。
 漫画「陽(ひ)のあたる家」は、女性向けの月刊誌「フォアミセス」(秋田書店)の昨年8~10月号に連載された。
 主人公の女性はパートの仕事をしながら、会社員の夫と中学2年の長女、小学5年の長男の4人で暮らしていた。夫が急病で入院すると、幸せだった生活は一変する。
 女性はパートの掛け持ちでしのごうとするが、家族の生活費と夫の医療費には足りない。さらに夫の会社は「2カ月近く穴をあけた」と退職を促し、夫は仕事を失う。貯金は底をつき、電気は止められ、家賃も滞納。長女が入る吹奏楽部の部費が払えず、穴が開いた長男の靴も買い替えてやれなくなる。
 追い詰められた時、パート仲間が教えてくれたのが生活保護だった。最初は屈辱感から申請に踏み切れない。でも家族で生きるにはこれしかないと、支援グループの力を借りて申請した。受給への葛藤や周囲の冷たい視線なども丁寧に描かれる。
 秋田書店によると、生活保護を正面から取り上げた異例の作品に、約100件の反響が寄せられた。「自分もいつこうなるかわからない」「不正受給が大半というイメージが変わった」などの声が多かったという。
 ■逆風強まる世論契機
 作者のさいきまこさん(52)がこの作品を描こうと考えたのは、人気お笑い芸人の母親の受給をきっかけに、「生活保護たたき」とも言える一部の報道や世論が強まったからだ。
 さいきさんは、生活保護をひとごとと済ませられない制度と感じている。39歳で離婚し、長男と2人暮らし。漫画やライターの仕事で精いっぱい働いてきた。年収は約250万円。老後もできる限り仕事を続けるつもりだ。
 しかし公的年金は月約6万円弱の見通し。「職を失えば貯金を崩すしかないが、年をとれば病気で医療費がかかる可能性もある。死ぬまで貯金はもつだろうか」。友人の弁護士にこぼすと「生活費が不足したら生活保護で補える」と言われた。
 世間では生活保護への逆風が強まり、誤解も少なくない。もし自分が将来保護を受けたら、息子まで非難されるのではないか。考えると怖くなった。
 元受給者や支援団体を取材した。自治体の窓口を訪ねても不当に申請を拒まれたり、受給したことで子どもまでが嫌な思いをしたり。そんな現実を作品に織り込んだ。「大企業の社員でも、病気や家族の介護で職を失うこともある。誰にとってもひとごとではないはずです」
 ■改正法成立でも、あきらめないで
 生活保護受給者数(昨年10月)は216万4千人となり、戦後最多を更新した。昨年12月には、不正受給対策と家族に対する扶養調査を強化する生活保護法改正案が成立した。生活保護を利用するハードルがさらに高くなると批判する声も強い。
 さいきさんも「貧しい家の子は生まれながらに家族の扶養義務に苦しみ、お金持ちの子には何の負担もない。法改正は社会の格差を一層広げてしまう」と心配している。
 単行本の末尾は、扶養義務の強化などにより生活保護申請が難しくなる可能性を指摘したうえで、こんなメッセージを送る。「しかし、政府は『これまでの運用を変えない』と答弁しているので、あきらめる必要はありません」
 秋田書店から。A5判168ページ、735円。(久永隆一、長富由希子)

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