西加奈子さん 「文学界もプロレスのように必ず盛り上がる」 直木賞受賞会見

[掲載]2015年01月16日

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西加奈子さん

会見で言葉を選びながらもテンポよく話す西加奈子さん 拡大画像を見る
会見で言葉を選びながらもテンポよく話す西加奈子さん

会見を生中継するニコニコ生放送の準備風景 拡大画像を見る
会見を生中継するニコニコ生放送の準備風景

 第152回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が15日、東京・築地の料亭「新喜楽」であり、直木賞に西加奈子さん(37)の「サラバ!」(小学館)が選ばれた。新人賞から作家デビューという王道ではなく、出版社への「持ち込み」から始まった作家業。会見前に記者に向かって「お願いします」と大きな声で挨拶し、海外育ちの自身を投影した受賞作「サラバ!」とその生い立ちを語った。

芥川賞受賞の一問一答はこちらから【小野正嗣さん】

――ひとこと、今の感想を
 とにかくシンプルにうれしいという言葉しか浮かばないです。

――ニコニコ動画です。ニコニコ動画をご覧になったことは?
 すみません、ちょっと拝見したことがなくて、申し訳ないです。

――ニコニコ動画の中継を見ている群馬県30代女性のほか、たくさんの方から質問があったのですが、主人公の歩には、西さんの人生がかなり投影されているように感じました。相当きわどい表現もありましたが、真実何パーセント、虚構何パーセントぐらいでしょうか?
 虚構100です。

――新人賞からのデビューではなく、「持ち込み」からという最近では珍しい道のりでしたが、そこから直木賞まで来た感慨は?
 私は文学賞を取ってデビューしたわけではなく、一人の編集者の方に(作品を)送りつけてデビューさせてもらったんです。その編集の方がいなければ作家としての私はないわけで、その方に「西加奈子という作家を世に出してよかった」と思ってもらいたかった。どの賞もうれしいですが、直木賞ってこんなにたくさん人が(会見に)いらっしゃると思わなかったし、知名度もある大きい賞なので…、これが恩返しとは言いたくないけれど、(受賞を編集者が)すごく喜んでくださったので、そこは本当にうれしいです。

――ここまで来られる予感って…
 ここまでっていうのは?

――直木賞まで…
 デビューしたときは5冊書けたらすごいって自分では思っていたんですね。それが何十冊も書けたということに驚いているし。直木賞ともなると規模が大きすぎてよくわからないという感じで、ただただびっくりしています。

――デビュー10年を記念して出された本で受賞して、10年前の自分に何と言ってあげたいですか?
 (デビューしたての自分に)何を言っても信じないと思います。あなたはすごく恵まれてるよ、ほんとに恵まれた環境でデビューさせてもらったし、たくさんの方に守ってもらったし、とにかく安心して書きなさい、と言いたいです。


――選評で(選考委員の)林真理子さんが、「自意識について書いているが、外に向かって拡散していくような大きさがある。海外育ちということが関係しているのではのではないかと
 さっき(芥川賞の)小野(正嗣)さんもおっしゃっていましたが、自分のことって本当にわからないですよね。自分が今の自分以外の人生を歩めたなら比べられたと思うんですが、日本で生まれて日本で育ってという自分と、海外で生まれて海外で育った私を比べられたならそうかもしれないけど、私は私としてしか生きてこられなかったので…、でもそう言ってくださるのはすごくうれしいです。

――小野さんからさきほど「土地の力が物語に必要」という話がありましたが、西さんが育ったイラクとかテヘランとかカイロとか、大阪とか、それぞれの土地は西さんにとってはどういう影響をもたらしましたか?
 いやあ、それぞれですよね。一言では言えないからそれをわたしの体験としてではなく、小説として「サラバ!」に書いたつもりです。

――林さんの選評で、「言葉の使い方が快刀乱麻で天才的」とありました。現実の世界にはいろいろとつらいことがある中で、「サラバ!」で書いた「信じるものに向かっていくとどこかに青空がある」と信じられる西さんの力はどこに?
 私は本から学びました。作家になる前、なった後に読んだ本から……。小野さんともそうですけど、(作家仲間と)一緒に飲んだりする中で……。本の話とかあんましないんですけど、一緒に飲んだ子がその後にすごい作品を出したりすると、それにものすごく勇気を持つ。同時代にいる作家にめちゃくちゃ感謝しています。
 「サラバ!」はハッピーエンドですよね。それをなぜ書けたかというと、作家のみんなが悪についてであったり、違和感についてであったり、マイノリティーについてであったり、それぞれの真実を全力で書いてくれているから、私は私の信じるものに迷うことなく取り組んでいけました。自分だけが作家だったら、なんやろ、悪についても書かないといけないしとか、もっと考えたと思うんですね。でも自分のハッピーエンドに向かって書いていかれたのは、それは同時代の作家のおかげです。

――林さんが「西さんはサリンジャーとかを原書で読んでいるんじゃないか……」
 原書?英語でってことですか?

――そうです
 あ、読めないです(笑い)。

――村上春樹さんを彷彿(ほうふつ)とさせるという意見も出ましたが
 うわっ、すごい。それ言(ゆ)ったらちょっとヤバいですね(笑い)。そんなんおこがましいです。申し訳ないです。でもむちゃむちゃうれしいです。

――26歳で上京されたときに、ご両親には「仕事が東京で見つかった」と嘘をついて出てこられたということですね。お父さんからは「両親が勝手に産んだんだから、あとは好きなように生きなさい」、お母さんからは「ありがとうという言葉は、何度言っても言い過ぎることはない」と言われてきたそうですが、「信じた道を生きる」影響は、ご両親から受けたのでしょうか?
 「ありがとう」と言うのは、大阪の人はみなそうなんですよね。バス降りる時にも「ありがとう」。なんやろ、心がないというか(笑い)、それぐらいナチュラルに出る言葉なんですね。祖母から母に、そして私に言われ継がれてきたのが「物喜びしなさい」という言葉で、これは関西の言葉なのかな…、調べてみたら「大げさに喜ぶ」みたいな意味なんですが、その言葉を守っているというか、そうなってまうというか。

――今日は大げさに喜ぶということはない?
 ここで大げさに喜んでいろいろ問題になると困るから、抑え気味にしています。
 父は小さいころから「おまえが生んでくれといって生まれたわけではないし、おまえはお父さんとお母さんが勝手に産んだんやから、好きに生きなさい。ただ自分のやりたいことに責任を持ちなさい」と、本当にその通りにやらせてくれました。
 両親は作家でいる私に驚いていて、さっき(受賞を知らせる)電話をしたらほんとにほんとに喜んでくれました。私が私以外の人間として生まれてくることは体験できないので、両親の子としてに生まれてきてよかった。そうじゃなければ「サラバ!」も書けなかったし、「サラバ!」以外の作品もそうなので。まとめちゃうと、二人には本当に感謝しています。

――今後どんな小説を書いていきたいですか?
 うーん、どんな小説…、「どんな小説」っていうのがふわふわしていて、全力で思うことを書きたいし、当たり前やって思っていることとか、当たり前やって思われていることとか、これが常識やっていうことを本当にそうなのかっていったん問いかけるようなものとか……。小野さんが「弱者」とは言いたくないとおっしゃった気持ちはよくわかります。
 小説というのはニュースにはならないこと、歴史を振り返ったときに大きなシャベルですくったものからこぼれ落ちるものを書くことじゃないかと思ってます。あとは、誰かひとりに寄り添うような小説を書きたいです。

――報知新聞です。たいへん柔らかい質問で恐縮なんですが…(西さん、質問者が見つけられず、きょろきょろする)、大変なプロレス好きとうかがっていますが、是非プロレスの魅力を(笑い)
 プロレスを私ごときが語れないんですが、もともと好きでずっと見てまして、作家になってから、特に最近、プロレスと自分たち(文学界)の状況を勝手に照らし合わせることがあるんです。新日本プロレスが好きなんですが、ずっと低迷していた時期に出てきたのが棚橋(弘至)さんで…、あ、この話大丈夫ですか?

――大丈夫です
 1月4日には必ず東京ドーム(「イッテンヨン」と言われる新日の大イベント)に行くんですが、私が作家になった頃は本当に人が少なくて、棚橋選手って今までにいない選手だったんです。たとえばチャラいとか、レスラーっぽくないとか、ベビーフェースなのにブーイングを浴びる選手だったんです。でも今、新日本プロレスってめちゃ盛り上がってるんですけど、それは真壁(刀義)、中邑(真輔)選手とかが、全力でプロレスを愛して(試合を)見せてきたから。去年1月4日のドームが(観客で)ぎちぎちになっていて、それを見た棚橋選手が「プロレス信じてやってきてよかったです」っておっしゃって、私はそれを文学界に当てはめていて…。
 今、本が売れない時代だと言われていて、例えば、飲み屋で出会ったおっ(あわてて言い直す)おじさんに、「もう(文学は)太宰で終わった、最近の作家なんて読めへん、小説を書くこと自体ダサい」と言われたこともあるんです。でも今、選手と(あえて)言いたいんですけど、すごい作家、すごい選手たちが全力で小説を書いていて、絶対また(文学界は)盛り上がる。いつか「小説信じてやってきてよかったです」って言いたくて…、わたし何の話してんでしたっけ?…、あれ、プロレスの魅力でしたよね?
――いや、素晴らしいお話ありがとうございます
 とにかくプロレスからはめちゃめちゃ勇気をいただいています。

――最後にひとこと
 小説が売れないという話をしましたが、とにかく1冊読んでほしいなあと思います。面白い小説ってめちゃくちゃいっぱいあって、わたしもすごい助けられたし、自分は作家やけど、小説を読むときは読者としてこんなおもしろい小説あるんや~っていっつも思っているんで、だから、とにかくみなさんに本屋さんに行ってほしい。どうか本屋さんで1冊本を買ってみてください。よろしくお願いします。今日はありがとうございました。

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