ルーシー・ブラックマンさん事件「15年目の真実」とは

2015年06月06日

ノンフィクション作家のリチャード・ロイド・パリーさん=東京都千代田区、堀英治撮影

ノンフィクション作家のリチャード・ロイド・パリーさん=東京都千代田区、堀英治撮影

■著者に会いたい「黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実」
《リチャード・ロイド・パリーさん(46)》
 2001年、英国人女性ルーシー・ブラックマンさんが遺体で見つかった事件。発覚当時から事件を追い続けた英国人ジャーナリストが、手記をまとめた。
 当時は英インディペンデント紙の特派員。「記事になる話」としか思わなかった。だが、世の関心が薄れても、次第に夢の中にまで事件が出てくるほど入れ込んだ。イラク戦争の取材中も頭を離れることはなかった。「ただの犯罪の話ではない。私がよく知る日本と英国という二つの社会が交わる物語だと思った」
 初来日は16歳の時。クイズショーで優勝して得た日本旅行だった。ヨーロッパとは全く異質の文化に魅了され、英国の大学卒業後、日本で暮らすように。事件が起きたのは、日本を「第二の家」と思い始めた頃だった。友人らの話から、ルーシーさんが日本で感じた興奮と孤独が自身の体験に重なることに気づいた。
 取材を通じ、知らなかった日本の側面も発見した。例えば夜の世界。「ホステス」というルーシーさんの職業が英国では一般的でなく、英国にいる上司から何度も「売春婦か」と聞かれ、説明に困った。東京・六本木に通い「水商売」の複雑さとあいまいさを知った。原文で一人称「I」を多用したのは、英語の読者に、自分の戸惑いを通じて日本社会を理解してほしかったからだ。
 ルーシーさんらへの準強姦(ごうかん)致死罪などに問われた受刑者の複雑な出自も丁寧に描いた。「すべての社会には摩擦や矛盾があるが、民主主義社会では問題はオープンに議論して解決するしかない。彼を生んだのは日本社会そのもの。事実に触れないのは責任放棄になる」との思いからだ。
 彼は日本に帰化した在日韓国人で、父親は貧しい移民から急激に裕福になった。彼自身はエリートコースを歩んだ。もちろん、出自が犯罪に関係するわけではないが、容疑者の生い立ちや社会的な背景などが報道されることは少なくない。だがこの事件では、ほとんどの大手メディアは彼の出自に触れることはなかった。「日本社会にはタブーがあるとも気がついた」という。
 一方、取材した警察官の多くは生い立ちと犯罪を結びつけ、驚くほど差別的な発言をしたという。「日本の差別は表に出ず、隠れている。捜査においては優秀だとされていた日本の警察に、無能な面があることも発見でした」
 本書は英語では11年に出版されたが、日本では多くの出版社から断られ、出版が遅れたという。
 取材を進める中、ルーシーさんも受刑者も、想像よりはるかに複雑で、多面的な人物だと知った。「最初は彼らを理解できないことが失敗のようにも思えたが、人はあいまいで多くの顔を持つもの。私にできるのは、理解できないことを尊重し、ただそれぞれの人物が抱える物語を伝えることだけなのだと気がついた」(濱野大道訳、早川書房・2484円)文・守真弓、写真・堀英治

黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実

著者:リチャード ロイド パリー、Richard Lloyd Parry、濱野 大道
出版社:早川書房

表紙画像

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