子育て支援が特効薬? 社会学者・柴田悠、近著で提言

2016年10月12日

「政策は客観的なデータに基づいて立案されるべきなのでは」と話す柴田悠さん

 日本の経済成長率や出生率を上げ、自殺率や子どもの貧困率を下げたいなら、子育て支援の政策に政府予算で最大約8兆円分を回せばよい――。社会学者のこんな提言に注目が集まっている。先進諸国のデータを分析し、「政府のどういう政策が社会をどう変えたか」を統計的に調べた研究の果実だ。

 提言したのは柴田悠(はるか)・京都大学准教授(38)。7年かけたデータ分析の詳細とそれに基づく政策提案を、6月に出した近著『子育て支援が日本を救う』(勁草書房)で示した。
 特徴は、構えの大きさだ。自殺率や学力、出生率などの問題にどういう政策が効果的かといった個別テーマに絞ってのデータ研究は、日本でも進んでいる。今回柴田さんは、日本が直面する様々な重要課題をまとめて取り上げ、総合的にどういう政策がより有効かを探った。
 「日本社会を救う政策は、保育サービスを中心とした子育て支援だろう。見えたのはそんな結論でした」と柴田さんは語る。
 「子育て支援は、社会の急激な少子化にも、労働生産性の低さにも、自殺率や子どもの貧困率の高さにも効果がある。いずれも日本の重要課題です。長期的には財政難や低成長の改善にもつながるでしょう」
 分析にはOECD(経済協力開発機構)が公表する加盟28カ国のデータ(1980~2009年)を使った。社会保障を初めとする様々な政策がその社会をどう変えたかをデータで見て、個々の政策の有効性を検証した。
 たとえば「労働生産性」を上げる要因を調べた際には、「女性の労働の拡大」や「保育サービスの充実」「失業給付の拡大」「高等教育への支援」「起業支援」など10種の項目を検討。各国でそれぞれがどれくらい生産性に影響を与えていたのかを測った。
 同様に「出生率」「自殺率」「子どもの貧困」などのテーマも検証。それら日本の重要課題について、平均的な先進諸国がたどった経緯を見ると、保育サービスの拡充を中心とする子育て支援政策が効果を上げていた、との分析結果を得たという。
 データ分析の手堅さは十分なのだろうか。
 柴田さんは「元々のデータ量が少ない分野もあったことなどから、完全ではない。OECD諸国でうまく行った政策が今後の日本でも絶対にうまく働く、と断言できるかも不明です」と語ったうえで、こう付け加えた。
 「社会科学には『日本社会をどうするか』という大問題に取り組む責務もある。私の研究が呼び水になって、他の研究者たちが私とは異なる視点からデータを検証してくれれば、より確かな知見に近づけるはずです」
 著書では政策も提言した。保育士の給与を引き上げつつ80万人分の待機児童をゼロにするために、追加で必要な予算は1・4兆円(第2刷までは1・5兆円)だと試算。その場合、労働生産性の成長率は0・5ポイント、経済成長率は0・6ポイント増え、子どもの貧困率は2・2ポイント減るとした。
 「待機児童の解消と、保育から大学までの無償化をセットにした政策も、約8兆円の追加予算を積めば可能です。その場合でも、相続税を増税したり被扶養配偶者への優遇制度に限定を加えたりを組み合わせて『小規模ミックス財源』の創出を行えば、財源的な実現可能性は出てくる」
 子育て支援は経済成長を求める右派と貧困対策を求める左派の政策的な合意点になりうる、と柴田さんは見ている。提言にはすでに主要政党の関係者からも関心が寄せられているという。
 著書で柴田さんは、選択は歴史を乗り越えるはずだ、と訴えた。「財源確保が夢物語ではない以上、有権者の前にあるのは、私の言う『日本を救う道』を選ぶか『救わない道』を選ぶかの選択であるはずだ。そう訴えるためにこの本を世に問いました」(編集委員・塩倉裕)

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