国とは、国民とは 須賀しのぶ「また、桜の国で」

2017年02月15日

須賀しのぶさん

 須賀しのぶさんの小説『また、桜の国で』(祥伝社)が話題だ。第2次大戦下のポーランドを舞台に、人間にとって国とは、民族とは何かという、重い問いを投げかける物語。1月の直木賞選考会では、初めてのノミネートながら、受賞争いに食いこんだ。

 ロシア人の父を持つ日本人青年が主人公。在ポーランド日本大使館に勤務し、戦争回避のために奔走するが、ドイツがポーランドに侵攻し、ヨーロッパは戦争に突入する。

 祖国が地図上から失われてしまったポーランドの人たち、あるいはゲットーの壁に押しこめられたユダヤ人たちを目の当たりにして、「国とは、国民とは、果たして何だろう」と自問する主人公。自身もロシアと日本のはざまで生きてきた青年は、物語の最終盤、ある決意を固める。

 直木賞の選考では、恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』とのダブル受賞も議論されたが、届かなかった。選考委員の浅田次郎さんは「私も近代史にかかわる小説を書くけれど、須賀さんの作品はよくできていた。知識が体にしみこんでいないと、ああいうふうには書けない」と評した。

 須賀さんは中学時代にドイツの文豪トーマス・マンのとりこになり、大学では西洋近現代史を学んだ。1994年にコバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞し、デビュー。少女向け小説のレーベルから次々に作品を発表した。

 ナチス政権下のドイツを舞台にした『神の棘(とげ)』を書いた頃から一般向け作品に重心を移し、ベルリンの壁崩壊前の東ドイツが舞台の『革命前夜』で大藪春彦賞を受賞。今作でも、ナチス・ドイツの猛威にさらされたポーランドを描いた。

 「すばらしい文学と哲学のある国が、どうしてああなったのか。良識ある人たちが、どうして変貌(へんぼう)していったのか。それを知りたいという思いが、今も続いているんだと思います」

 だが、この作家の持ち味は、そんなシリアスさばかりではない。「キャラクターを立たせることを、いつも意識して書いています。暗い部分がある話だからこそ、わかりやすく、時には少しコミカルに」

 重い題材を扱いながらも、ぐいぐい読ませる軽快さを見失わない。少女向け小説を多く書いてきた人だからこその強みなのだろう。

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