被災地で語られた「不思議な体験」 奥野修司がまとめる

2017年03月15日

奥野修司さん

 津波で流されたはずの祖母が、あの朝、出かけたときの服装のままで縁側に座って微笑(ほほえ)んでいた。悲しんでいたら、津波で逝ったあの子のおもちゃが音をたてて動いた――。東日本大震災の被災地で聞いた、そんな不思議な話をノンフィクション作家奥野修司さんが『魂でもいいから、そばにいて』(新潮社)として世に出した。

 きっかけは、震災の翌年、懇意にしていた宮城県の医師から、被災地では霊体験とも言える証言をたくさんの人がしている、と聞かされたこと。やがて「死者と逢(あ)いたいと願う生者の物語を聞いてみたい」と考えるようになった。

 大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞を受けた『ナツコ 沖縄密貿易の女王』など著作多数の奥野さん。しかし、本作の取材で直面した、再現性もないし客観的な検証もできないことには困ったという。

 取材には3年半かけた。ほぼ毎月の月末に被災地を巡り、語ってくれる人を訪ね歩く。長年の取材経験をもとに、1人に会うのは最低でも3回とした。最初は3時間ほど、ただ聞く。2回目にようやく質問をはさむ。という風に丁寧に接することで、口の重い人とも打ち解けられ、結果として、語られた「事実」のたしかさに思い至った。

 1歳10カ月の次女と妻を失った男性。生きているのが嫌になったとき、よく不思議な体験をするという。夢で2人と会ったときの様子はノートに記録し、映像のスケッチも添えていた。妻に「待っている」と告げられたこともある。そのひとことを「究極の希望」として心に刻み、いつかあの世で再会することを生きる支えにしている。

 「大切な人を亡くした人は、百%の『心の復興』などできない。そして不思議としか言えない体験をすることは確かにある」と奥野さんはいま思う。「そんな物語を耳にした人々も、不合理だと切り捨てずに受け入れる。そうした営みのなかで、すこしずつ悲しみと折り合いをつけることもできるのでは」

 本作は「春の旅」「夏の旅」「秋の旅」という構成で、16人の語り手を登場させた。「被災地への旅をつづけ、いつか『冬の旅』として完結させたい」

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