小説も料理も適量って難しい 柚木麻子「BUTTER」

2017年05月17日

柚木麻子さん

 作家、柚木麻子さんの新刊『BUTTER(バター)』(新潮社)は、首都圏連続不審死事件をモチーフにした長編小説だ。法廷やブログで被告が見せた欲望を抑えない生き方は、世の女性たちを戸惑わせた。「被害者の家族や周りの女性が気になって書き始めた」という。

 婚活サイトで知り合った複数の男性から金を奪い、殺害した罪に問われた女。週刊誌記者の里佳は拘置所に通い、インタビューを重ねる。里佳の取材は、被告が通っていた料理教室の女性たち、家族を奪われた女性たちに向かってゆく。

 被害者の男性らは「家庭の味」「家庭的な女性」にひかれて悲劇を歩む。母や妻に去られた男性は急に生活が荒れ、生きる気力さえ失う。「ご飯を炊くことさえできない男性はなぜか世間から同情されて、立ち去った女性の方が非難され、責任を感じてしまう」

 孤独死をする主人公の父は、柚木さん自身の家族と重なる。「母と別れたあと、父はセルフネグレクトのような状態で亡くなりました。私がもっといい娘だったら違っていたのでは、と後ろめたさがあります。父のことは今も理解できず、割り切れない。でもそれでいいのかも。辛みや苦みがあった方が料理はおいしくなるように」

 ベストセラーになった『ランチのアッコちゃん』を始め、食を素材に女性の生きづらさを書いてきた。「料理好きだというと、家庭的だねと言われますが、実際はそうとは限らない」。料理は時間をかけないとだめ、ママの味を知らない子は不幸、男は胃袋をつかめ。「どれもふわっとした言葉でのろいをかける。料理と愛情は別物。コンビニのご飯でもいいし、冷蔵庫にあるものでぱぱっと作ってもいい。日本の社会は女性への要求が高い」

 料理本で「塩適量」と書くと「適量ではわからない」とクレームが入ると知人から聞き、挿話として取り込んだ。「適量が難しい時代。人はそれぞれ自分なりの適量があり、失敗しないとそれはわからない。でもみんな失敗したくないから適量が見つけられない」

 2008年にオール読物新人賞を受けた後、編集者から「毎月200枚は書くように」と言われてノルマのように枚数をこなしていた時期があった。「去年ごろから自分の適量がやっとわかってきました。小説が何かも分からず書いていた時期があったけれど、それは無駄ではなかったと思います」

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