繰り返す悲しみ、それでも 宮内勝典新刊

2017年07月12日

宮内勝典さん=東京都内、浅野哲司撮影

 読売文学賞を受けた『焼身』など、世界の現実と向き合う小説を書いてきた宮内勝典(かつすけ)さんの新刊『永遠の道は曲(まが)りくねる』(河出書房新社)が出た。人類が繰り返す惨劇、そしてなお輝き続ける生命の美しさを、刻みつけるような強い筆致で描き出す。

 主人公はかつて世界を放浪し、今は沖縄の精神科病院で働く有馬という男性。ふとしたことから、米軍基地の中と外を結ぶ洞窟(ガマ)の存在を知る。
 世界のさまざまな悲劇を生きのびてきた老女たちがそのガマを訪れ、かわるがわる語り出す。白人と弓矢やおので闘い、無残に殺されていったアメリカの先住民たちのことを。あるいは爆弾を仕込んだ買い物籠を渡され、市場の人々を巻き添えにして吹き飛んだ中東の孤児のことを。
 太平洋戦争で多くの命が失われたガマの暗がりに、人間たちの残酷な振る舞いが、一つまた一つと浮かび上がる。「人間のことを書こうとしたら、こうなった。話の舞台は沖縄でも、日本やアメリカだけでなく、人類のことを書きたかったから」と宮内さん。
 かつて宮内さんはアメリカ、中東、アフリカなど、60カ国以上を巡り歩いた。「いろいろな国、いろいろな人の苦しみをたくさん見てきた」。けれどこの小説は悲劇の姿を片方の立場から決めつけず、時にはオサマ・ビンラディンを思わせる人物の死を嘆く女性さえ描く。「イスラムの立場も西欧の立場も、どちらも見てきた。だから物事を相対的に見ようとする癖がある」
 物語の後半、主人公の有馬は沖縄を離れ、最後の旅に出る。その先にあるのは、ビキニ環礁。そこで有馬と読者が目にするのは、太平洋戦争から第五福竜丸が浴びた「死の灰」、そして福島の原発事故に至るまで、ひと続きにつながる悲しみの連鎖だ。
 「福島のことは今、日本人がいちばん考えなければいけないこと。だからこの物語は、沖縄で終わらせるわけにはいかなかった」
 『ぼくは始祖鳥になりたい』(1998年)、『金色の虎』(2002年)と書き継いできた地球規模の物語の、いわば終着点にあたる作品。有馬の旅は終わりに近づき、宇宙船乗りの友人は地上に降り、人生の終わりを静かに迎える者もいる。
 なのにタイトルを「永遠の道は曲りくねる」と決めたのは、やはり「人間のことを書きたかった」からなのだろう。「人類の試行錯誤は、これからまだまだ続く。この話は完結させたつもりだけど、本当にそうなのか、自分でもよくわからない」
 世界の現実を見つめる小説をまたひとつ世に送り出して、それでも「文学というものの無力さを嫌というほど感じる」と宮内さんは言う。
 「でもね」と、その先はつぶやくような声だった。「現実と闘わない文学なんて、ねえ」
(柏崎歓)

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