「140字の文学者」が初小説 燃え殻さん

2017年08月30日

ペンネームの「燃え殻」は好きな曲名からとった

 「140字の文学者」と呼ばれるツイッターユーザー、燃え殻さん(43)の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)が7万部超のヒット作になっている。文芸の世界とは無縁だった40代の会社員が、自分自身の青春を題材に初めて書いた恋愛小説だ。

 主人公は、テレビのテロップなどをつくる美術制作会社で働く40代のボク。ある日、フェイスブックで行き当たった元カノのページをみているうちに、うっかり「友達申請」をしてしまうところから物語は始まる。

 1990年代末、東京。専門学校を卒業したものの、惰性で就職した菓子工場での仕事に甘んじているボク。そんな頃、文通がきっかけで初めての彼女ができた。決して美人ではないけれど、音楽や映画、ファッションに独自の価値観を持ち、ボクの人格形成に影響を与えていく彼女。ラブホテルで過ごす時間、一緒に追いかけたサブカル、ノストラダムスの予言……。胸にしまわれていた、あの頃の記憶があふれ出す。

 書かれていることのほとんどが実体験に基づくという。「キミは大丈夫だよ、おもしろいもん」。文中でボクが繰り返し回想するのは、実際に彼女から言われたセリフだ。「あの一言があったから、これまで生きてこられた」。主人公の「ボク」を思わせる、控えめな話し方に人柄がにじむ。

 元々、「読んだことがある小説は、中島らもと大槻ケンヂくらい。作家になりたいと思ったことは一度もなかった」。日常を切り取った叙情的なツイッターのつぶやきにファンがつき(現在フォロワー10万人超)、ウェブ上で小説執筆の依頼が舞い込んだ。

 「40過ぎて初めて小説を書く恥ずかしさ。それに追いつかれないよう夜中に一気に書いて送信ボタンを押してました」。ラブホテルの安っぽい芳香剤や、嬌声(きょうせい)の響く盛り場で口にするジンリッキー。細部を盛り込んで回想される青春は、読者の中にある記憶を喚起する。

 予想外のヒットで、トークイベントや対談で多忙の日々だ。「誰でも一作は小説が書けるだけです」と次作については消極的だが、「下請け体質なので、頼まれたら断れないかも知れません」。(板垣麻衣子)

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