出版不況・活字離れというけれど… 文芸誌新人賞の応募、根強く

2017年09月13日

文芸誌5誌の新人賞応募数と主な受賞者

 芥川賞みたいに有名ではないけれど、作家を世に送り出す重要な役割を長年果たしてきたのが、文芸誌の公募新人賞。「出版不況」「活字離れ」と言われる昨今、応募は下火かと思ったら、実は意外に堅調らしい。いったい、なぜ?
 
 ■SNS普及、「書く」こと日常化
 5月の連休明け、都内で開かれた「文学界新人賞」の贈呈式。ジャケットにメガネ、細身の男性がそこにいた。
 沼田真佑さん。数カ月後、芥川賞作家として脚光を浴びる。でもこのときはまだ、まったくの無名だった。
 文学界新人賞とはその名の通り、文芸誌「文学界」の公募新人文学賞。贈呈式は編集者たちと記者数人が囲む、ごくささやかなセレモニーだった。
 受賞作として文学界に載ったデビュー作が7月に芥川賞に決まり、2カ月前とは比べものにならない量のフラッシュを浴びた沼田さんの言葉には、喜びと戸惑いの両方がにじんだ。
 「ジーパン1本しか持ってないのに、ベストジーニスト賞を取るようなもの」
 沼田さんだけでなく、芥川賞候補に選ばれる作家は、文芸誌の新人賞の出身者が多い。
 出版科学研究所によると、書籍・雑誌の推計販売額は1996年をピークに減少傾向。ところが本が売れなくなっても、文芸誌新人賞の応募者はさほど減っていない。
 「文学界」のほか、芥川賞候補者を送り出すことが多い「群像」「文芸」「新潮」「すばる」を加えた純文学系5誌の新人賞の応募数をまとめてみると、90年代後半を過ぎても減る気配を見せず、むしろ2000年以降のほうが高い水準を保っている。ここ2年はやや減ったが、これは文学界新人賞の募集が年2回から1回に減った影響とみられ、堅調な状況は続いている。
 本はどんどん売れなくなっていくのに、書く人が減らないのは、なぜなのか。
 「文学界」の武藤旬(じゅん)編集長は、「本が売れなくなったという指摘は、その通り。でもメールやSNSの普及で、一般の人が文字を使う量はむしろ、かつてないほど増えているはず」と言う。「若い人は長電話をしないでしょう。上の世代より、明らかに書くことに慣れている。日常を文字にして何らかの共感を求めるという行為は、まさに小説の第一歩なんです」
 「すばる」の羽喰(はくい)涼子編集長は、その時々の受賞作が応募者数に影響する場合もある、と話す。
 03年、「蛇にピアス」ですばる文学賞に選ばれた金原ひとみさんが、翌年には同じ作品で芥川賞を射止めた。「1本でベストジーニスト」のパターンだ。
 綿矢りささんとのダブル受賞で脚光を浴び、すばる文学賞の応募者数も数年にわたって跳ね上がった。綿矢・金原ブームの影響は公募新人賞全般に及んだとみられ、このときから数年が、これまでの応募総数のピークになっている。

 ■ネットに情報、ハードル低く
 『芥川賞物語』などの著者、川口則弘さんは「賞の情報がインターネットで簡単に入手できるようになったことも大きい」と指摘する。過去の受賞者や選考委員の顔ぶれなどもすぐに分かるようになり、応募のハードルが下がったとの見方だ。
 応募が堅調だとしても、質が落ちているということはないのか。文学界の武藤編集長は「一概には言えないが、水準が下がっているとは感じない。むしろ、国際的なルーツを持つ応募者が目に付くなど、多彩な作品が生まれるようになっているのでは」と話す。
 これからの応募者に求めることは何かとすばるの羽喰編集長に尋ねると、「こういうのを読みたいけど世の中にない、だから書くんだという気持ちが大事」と語った。「難しいことだけど、そう信じる強さが文学には必要です」(柏崎歓)

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