沖縄戦、示すリアリティー 池上永一「ヒストリア」

2017年09月13日

池上永一さん

 『テンペスト』や『風車祭(カジマヤー)』など沖縄の文化を鮮やかに描く作家、池上永一さん。前作から4年ぶりとなる長編『ヒストリア』(KADOKAWA)は沖縄からボリビアに移民する者たちの物語だ。デビューから23年、初めて沖縄戦を取りあげた作品になった。

 1945年3月の沖縄から物語は始まる。爆風の下を逃げ回り、少女はしたたかに生きのびる。戦後、移民船に紛れ込むが、たどり着いた先は「夢の楽園」とはほど遠い、原生林の広がる風景だった。移民らは、大河の氾濫(はんらん)や疫病を乗り越えて、「コロニア・オキナワ」をつくりあげる。美しい青年との出会いをへて、ヒロインは激動の時代を駆け抜ける。

 20年ほど前、NHKの小さな番組でボリビア移民を知ったのがきっかけ。「自分が無知だった」と思うと同時に、「沖縄は米軍基地に農地を奪われ、雇用の場もない。人々はなかば追い払われるように南米のジャングルに移住していた。この歴史も含めて沖縄の戦後。絶対に書く」と決めたという。

 これまで沖縄戦を取りあげなかったのは、「小説でどう語るか、踏み込む勇気がなかった」と振り返る。無垢(むく)な命が理不尽に虐げられた、という定型化がなされていないだろうか。「移民の目から見た、新たな戦争のリアリティーを提示したい。20年間向き合わなければ書けなかった」

 1970年、那覇市生まれ。石垣島で育った。ベストセラーになった2008年の『テンペスト』は琉球王朝が舞台だった。「きらびやかな光の部分を書けば自分たちの文化が誇らしく思え、沖縄にも歓迎される。しかし光に偏りすぎていると思っていた」

 執筆前に1週間、ボリビアを訪れた。近代建築とバラックの混在する町並みは復帰後の沖縄に似ていたそうだ。地平線が永遠に続き、貧富の差は激しく、日本の常識は通用しない。ボリビアの描写はリアルだが、驚けば「ハッサヨー」と叫び、悪霊のような老婆が現れる、枠にはまらない大胆さや幻想的な描写は池上作品らしく楽しい。

 大きなお尻で相手をつぶす必殺技のプロレス女王に、陽気で勤勉な日系3世の兄弟。型破りな仲間と奔放に南米を飛び回る。だが、人生の階段をひとつあがるたび、沖縄戦の光景がよみがえる。

 「沖縄の空は今も爆音が響き、何も解決されていない。キューバ危機や冷戦など世界の構造が変わっても、人生が流転しても、戦争の体験は変わらない。いろいろな戦争のイメージを想起させながら、沖縄戦を描くことが小説ならできる」(中村真理子)

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