自由奪われてもあきらめず 堀川惠子、戦禍の演劇人描く

2017年09月20日

堀川惠子さん

 戦時下でも、自分たちの芝居をあきらめなかった人々がいた。その結果、劇団「桜隊」は疎開先の広島で原爆に遭い、全滅したという。命拾いをした演出家の人生を通して、激しい波にさらされた演劇界を活写する作品を、ノンフィクション作家堀川惠子さん(47)が著した。

 『戦禍に生きた演劇人たち』(講談社)。演出家八田元夫(1903~76)が残した資料を丹念にたどり、戦前から戦後に至る演劇界の動きを追った。

 迫る戦禍に自由を奪われていった演劇人。生き残りをかけ、八田らによる「苦楽座」は大戦末期、大空襲に見舞われた東京から広島へと疎開し、「桜隊」と改名した。各地を移動しながら上演を続けたが、8月6日に被爆。たまたま広島を離れていた八田は、隊員の捜索に看病に奔走する。仲間の無念を忘れず、演劇にその一生を捧げた。

 堀川さんは広島県出身。地元のテレビ局勤務を経て、2004年にフリーに転身した。昨年大宅壮一賞を受けた『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』(文芸春秋)など、これまでも原爆を取り上げた作品に取り組んできた。桜隊はその当初から温めてきたテーマで、NHKで放送されたテレビドキュメンタリーとして出発したという。

 戦時中の演劇界については判然としないことが多く、本作の取材は難航した。しかし昨秋、八田の遺品が早稲田大学演劇博物館で見つかった。写真や自らの似顔絵も描いた書き物といった、残された膨大な資料をほぐしていくことで、筆が一気に進んだという。

 序章にはこう記す。「彼らが生きた時代に向きあう時、私たちは改めて反芻(はんすう)することになるだろう。あの時と同じ空気が今、この国に漂ってはいやしないか」

 そのうえで取材で語った。「自己規制の目立つ現代社会に向け、無理を重ねながらもあきらめなかった演劇人の生き方を伝えたい」(木元健二)

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