昭和のくらしを体験、作画に現実感 映画「この世界の片隅に」監督ら語り合う

2017年10月29日

右から小泉さん、片渕監督、浦谷監督補。昭和のくらし博物館の縁側でもんぺを広げ、小泉さんが着方を説明する=東京都大田区、岸本絢撮影

 日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞、観客動員200万人を超えた映画「この世界の片隅に」(原作・こうの史代)の監督・片渕須直さん、監督補・浦谷千恵さんと、東京都大田区の昭和のくらし博物館館長・小泉和子さんが、小泉さんの本『くらしの昭和史』(朝日選書・1836円)と「この世界の片隅に」(DVD、バンダイビジュアル・4104円)の発売を機に今月、同館で話し合った。
 映画は今月、「緻密(ちみつ)な時代考証と見事なアニメーション表現」を評価され菊池寛賞に決まった。監督補の浦谷さんは景色やキャラクターなどを監督の片渕さんの指示で絵として構成する。「でも調べただけでは絵にならない」。2013年、浦谷さんは同館主催の講座「昭和くらしの学校」に半年間通い、着物の洗い張りなどを学んだ。年末の館の大掃除にも参加した。夫である片渕さんと作画監督の松原秀典さんも男手として障子貼りをしたり畳を上げたりしたという。小泉さんの育った家である同館は「門をガラガラと開けて入ると井戸がある。普通のくらしのたたずまいが参考になった」と片渕さんはいう。
 映画冒頭、主人公が石垣の壁を使い風呂敷包みを背負う場面に、生活史の専門家・小泉さんは感心する。「『腰を切る』と言うが、荷物は腰を決めないと背負えない」。「アニメは実際の所作がわからないと描けないんです」と片渕さん。
 浦谷さんは館が制作したDVD「昭和の家事」を見て、「洗濯板は洗いとすすぎとでは使う板目の向きが違うのを知り驚いた。参考にして描きました」。
 小泉さんの本には、研究の背景にある自身の家族史も描かれる。横浜大空襲の火の中を妹をおぶい逃げたこと、野草を本能で見分け食べたこと。映画に登場する食料難対策の「楠公飯(なんこうめし)」を片渕さんらは何回も作ってみたという。玄米を煎ってふやかし炊くが、当時不足した塩を入れないと「情けない味でした」。映画では敗戦後の街に朝鮮の旗が小さく映る。「戦前から朝鮮・台湾などから米が、戦争後期には満州から脱脂大豆かすが来ていた。主婦である主人公が戦後、何かに気づくとしたらそこではないか。労働力だけでなく、自分たちの身体が外から来たもので作られてきたことを生活者の視点で描いておきたかった」と片渕さんはいう。
 映画は「日常の地続きに戦争があることをよく表している」と小泉さんはいう。片渕さんも「夏になれば日に焼けるといった日々のくらしを、戦争と別々に置かずに語ることが大切。映画は2年間を描いたが、主人公のすずさんは生きていれば93歳、その後の七十数年を思い描いてみるのもいいんじゃないか」と思いを述べた。(岡恵里)

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