(漱石 生誕150年)「草枕」まるで桃源郷 宮崎駿さん・半藤一利さん対談

2017年11月26日

 アニメーション監督・宮崎駿さんと作家・半藤一利さん。「漱石好き」で結ばれた2人が対談で語り合った。焦点が当たったのは『草枕』。「漱石の作った桃源郷のような世界」(半藤さん)、「何度読んでも、どこから読んでも面白い」(宮崎さん)と盛り上がった。

 東京都新宿区の早稲田大学大隈記念講堂で開催された新宿区立漱石山房記念館開館記念イベント「漱石と日本、そして子どもたちへ」(新宿区主催、朝日新聞社など共催)に、2人は登壇。宮崎さんが対談の冒頭で、制作中の新作長編のタイトルが「君たちはどう生きるか」になると発表したことも、話題を呼んだ。
 「『草枕』はもう何回読んだか分からないくらい。飛行機に乗る時はいつも持って行きます。『こころ』とか、つらくてダメなんです。『それから』もドキドキして耐えられない。だから漱石を語る資格はないんですが」と宮崎さん。
 「私も初期の作品が好きで、『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『草枕』は最高です。(伊豆で漱石が大量吐血した)『修善寺の大患』であの世を見て、書くものが変わってしまった。その前の作品の方が、好き勝手にやっていて楽しい」と半藤さん。
 『草枕』の主人公の画工は、温泉宿でのんびり絵を描き、芸術について思索を巡らす。
 「画家でなく画工というのがいい。職業として絵を描くというのは、僕らの仲間ですから」と宮崎さん。「『坊っちゃん』も最後に『街鉄の技手』(市電の技術者)になる。あれも好きです。だから僕には『坊っちゃん』が挫折の話とは思えない」
 『草枕』は、宮崎アニメにも影響を与えている。宮崎さんは2010年、スタジオジブリの社員旅行で熊本行きを提案。画工が泊まる「那古井の宿」のモデル、熊本の小天(おあま)温泉にある前田家別邸を訪れた。「漱石が座ったという場所に座ってみました」
 2013年公開の映画「風立ちぬ」では、前田家別邸をモデルに、主人公二郎と菜穂子が新婚生活を送る黒川家の離れを描いた。
 「『草枕』の舟で川を下る場面が好きで、その川を見たいと思っていたら実際には川がなかった」と宮崎さんが言うと、「漱石の創作ですから。山があって川があって、山水画の世界です」と半藤さん。「作品の中でウソをつくというのは僕もしょっちゅうやってきましたが、漱石はそんなことしないと思っていた」と宮崎さんは苦笑した。
 映像にしたら映えそうな場面の多い『草枕』を「漱石山房記念館で流したらいいと思うので、5分でもいいからアニメにしてほしい」と求める半藤さんに、初めは「とても難しそうですが……」と困った顔をしていた宮崎さんだが、「山水画のようなのどかな世界に、スッと入って5分だけいてスッと出てくるアニメーションというのも、ありだと思いますね」。半藤さんとの対話で、想像力を刺激されたようだった。
 この日の記念イベントでは、対談に先立ち、俳優・竹下景子さんが『夢十夜』『草枕』などを朗読した。
 (小原篤)
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 みやざき・はやお 1941年生まれ。代表作に映画「となりのトトロ」「千と千尋の神隠し」など。
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 はんどう・かずとし 1930年生まれ。著書に『日本のいちばん長い日』『昭和史』など。
 ※2013年に2人で対談集『半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』(文春文庫)を出版した。

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