情緒に流れず、時流におもねらず 西部邁さんを悼む

2018年01月24日

社会経済学者の西部邁さん

 保守派の論客として知られ、討論番組「朝まで生テレビ!」(朝生)など、メディアでも活躍した評論家の西部邁(すすむ)さんが21日、遺書を残して東京の多摩川に入り、78歳で亡くなった。思想や文化など、幅広い教養に裏打ちされた評論活動を展開した西部さんの死を、交流のあった人たちが悼んだ。

 西部さんと親交が深く、共著もある中島岳志(たけし)・東京工業大学教授(近代思想史)は、その保守思想の特徴について、人間の合理性を疑いつつも「決して情緒に流れず、徹底して合理的に考え続けたことだ」と指摘する。
 近年、保守やリベラルという言葉の意味の問い直しが進むが、「西部さんは二つは対立するのではなく、相互補完的な関係にあることにいち早く気がつき、議論を展開していた」と評価する。思想家とは現代社会でどうあるべきか。その問いを真摯(しんし)に考え、実践した稀有(けう)な存在だったとも語る。「『思想家は時評から退いてはならない』という言葉を何度も聞かされた。死をとても残念に思う」と嘆いた。
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 柔和な語り口ながらも、時に過激な言動で注目を浴びたのが、「朝生」への出演だった。司会を務めるジャーナリストの田原総一朗さんは、「彼とは意見は違ったけれども人間として信頼していた。何が起きても決して時流におもねらない人だった」と評価する。
 1980年代後半から始まった「朝生」への出演を田原さんが頼んだという。「かつては学者や評論家というと、左翼なのが当たり前。保守の彼には『悪役』になってほしいとお願いしたが、出演してくれた。そんな人物は他にいなかった」と振り返る。
 また発言の先見性も感じるという。「民主主義は、ポピュリズムを生み、ファシズムにつながるから危険である、といったこともすでに語っていた」「彼のような強烈な個性が(今の日本社会から)失われてしまったことを残念に思う。ショックだ」
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 マンガ家の小林よしのりさんも強い影響を受けた一人だ。米国に批判的な保守という立場を共有していた。西部さんの思想の根底には、「右だろうが左だろうが、ある程度の違いは論理の力で束ねられるという信頼があった」ように見えたという。
 「イデオロギーよりも人間の庶民感覚のようなものを信じていたのだろう」
 ただ、その「庶民感覚」とは人間の一般的な感情を素朴に指していたわけではなかった、とみる。
 「庶民感覚というのは、相手をもっと知りたい、歴史をもっと知りたい、といった感情のこと。そういう歴史と想像力を大事にしていたのが、西部(さん)の思想。改めて読まれるべきだと思う」と話す。(高久潤)

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