ストップウォッチで記録、スピードと質の両立めざす 医療ミステリー「祈りのカルテ」、知念実希人さん

2018年04月28日

知念実希人さん

 現役の内科医で作家の知念実希人(みきと)さん(39)が、連作短編集『祈りのカルテ』(KADOKAWA・1404円)を発表した。大学病院に勤める研修医が患者の心の内側に向き合い、症状や疾患の向こう側にある秘密や問題を見つけ出し、解決していく医療ミステリーだ。
 主人公は、大学病院の研修医・諏訪野良太。2年の間に外科、内科、皮膚科などを2カ月ずつ経験し、基礎的な力をつけている。最初の物語の舞台は精神科で、睡眠薬を服用し、繰り返し搬送される女性のカルテから毎月の退院日が一緒であることを発見する。その真相は――。
 ほかに、小児科にぜんそくで入院するも、薬をゴミ箱に捨てる少女、循環器内科で入院するわがままな俳優らが登場。諏訪野は、病やけがに隠れた患者の複雑な事情や深層心理を解き明かしていく。
 5編の連作短編を通じて読者は、医師と一般の人の中間にいる研修医の視点で、生々しい医療現場をのぞくことができる。
 知念さんは沖縄生まれの東京育ち。曽祖父から父まで医師だった。小学生の時に純粋に謎解きを楽しむ「新本格ミステリー」ブームが起きて熱中。「医師になるのは現実的な目標で、作家になることは夢でした」
 研修医は2年の間に、将来自分がどの科で働くか、一生の選択をしなければいけない、という。主人公は期限ぎりぎりまで悩み続ける。やはり研修医の経験をした知念さんは同じ頃、作家を目指すことを決めた。「医師は患者を助けることができるやりがいのある仕事。ただ世界中で共通の治療法に則して治療するのが基本の世界です。逆に小説はオリジナリティーを出さなければいけない。その点にやりがいを感じた」。医師をしながら本格的に執筆活動を始め、6年前に作家デビューした。
 現在は週に1度、内科医として病院で働き、他の時間は作家の活動に充てている。「職人的な作家」と自称する知念さんは、執筆の方法が独特だ。
 仕事場は自宅や喫茶店、レストランなどを試行錯誤した末、会員制の図書館にたどり着いた。必要な道具は基本的に三つ。思いついたアイデアをメモするシステム手帳、パソコン、そしてストップウォッチだ。
 ストップウォッチは、15分ごとに何文字を書けたか記録し、スピードと質の両立を図るために使っている。「文体というよりも、ストーリーで勝負する作家。世間のニーズも加味して、自分が書ける最高の作品をコンスタントに出していきたい」。職人のような精密な仕事ぶりが巧みな伏線と驚きの展開に結実し、売れ行きは好調という。(宮田裕介)

祈りのカルテ

著者:知念 実希人
出版社:KADOKAWA

表紙画像

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