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原爆投下から60年、私たちは疑うことなく平和を享受している。しかし、人と人との関係が壊れていくなか、自ら感覚を鈍らせるようにして生きる時代が本当に平和と言えるのか。著者は鋭く問いかける。 第一話「永遠の火」は、晩い結婚を目前にした娘と、会社人間だった父との確執を描く。父が望んだのはキャンドルサービスに「原爆の火」を使うこと。父の真意を探ろうとする娘は、初めて両親の「老い」に気付いていく。第二話「時の川」は、修学旅行で広島平和記念資料館を訪れた中学生が主人公である。自分を弱い存在と意識している少年が、原爆の語り部である老婆と触れ合うことで生じたある変化を描く。第三話「イワガミ」は、自分の言葉で原爆を描こうと悩む女性作家の物語。取材に訪れた広島で彼女が出会ったのは忘れられた一編の小説。被爆者が残したこの小説を契機に、主人公は太古の時代から広島に流れる時間に触れ、鎮魂と救済の意味を見いだしていく。第四話「被爆のマリア」は、家庭内暴力を受けて育ち、社会に出ても人間関係を築けない若い女性の話である。彼女にとって唯一の救いは、長崎で被爆したマリア像。世間の悪意を敏感に受け止め、自分を責め続ける彼女は「無原罪のマリア」となり得るのか。 原爆という題材を通して、今の時代の痛みをえぐる短編集である。 |
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