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新釈 走れメロス 他四篇 [著]森見登美彦

[掲載]2007年03月30日夕刊

■現代に甦(よみがえ)ったあの名作

 日本近代文学の名作のプロットを借りて、常軌を逸した京都の大学生たちの生態を描いた短編集である。俎上(そじょう)にのせた名作は、『山月記』『藪の中』『走れメロス』『桜の森の満開の下』『百物語』の5篇(へん)。原典の文体を生かした上で、思い切った味付けをした森見ワールドにグイグイと引き込まれるだろう。

 たとえば太宰治の『走れメロス』は、爆笑モノの破天荒な物語になっている。約束の時間までに学園祭に戻らなければ、親友がピンクのブリーフ姿で踊らされる――。変人ぞろいの「詭(き)弁論部」に属する芽野は、大学の裏組織の長官と約束を交わし、京都の町を疾走する。彼が走るのは逃げるため。「これは信頼しないという形をとった信頼、友情に見えない友情だ」。原典に満ちている高揚感は、「そうして二人はならんで踊り狂った。もう踊る必要はないはずなのに精一杯踊った」と、どたばたの笑いに変換される。また、『桜の森の満開の下』では、当世風の若者の口を借りて、安吾が描いた心の奥底にひそむ虚無感を引き出す。一見パロディーのようだが、原典のテーマをはずしていないところに、文豪たちに対する著者の敬意がうかがえる。まったく異なる味わいの5篇を一つの世界にまとめあげた才能は恐るべきものといえる。原典と比較すれば、その凄さに納得がいくだろう。

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