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11時間―お腹の赤ちゃんは「人」ではないのですか [著]江花優子

[掲載]2007年07月27日夕刊

■“人”の命の境界線に切り込んだルポ

 人はいつから“人”になるのか。胎児は“人”ではないのか。生命の問題の矛盾に切り込んだ、2006年の小学館ノンフィクション大賞・優秀作受賞作品である。

 2003年12月、札幌市で若い夫婦が乗った車にワゴン車が突っ込み、一つの命が奪われた。妊娠8カ月の妻は事故直後に帝王切開で娘を出産するが、新生児は11時間後に亡くなった。夫妻は娘に対する業務上過失致死罪の立件を求め、刑事裁判に臨む。だが、判決は意外なものだった。事故が起きた時に妻の胎内にあった胎児は、刑法では人と認められていないのだ。

 夫妻を取材した著者は、法律、生物学、生殖医学、宗教と多岐にわたる分野で取材を進めた。しかし、胎児を“人”として認めると、人工妊娠中絶の問題にぶちあたってしまう。望まない妊娠でも、中絶は“人殺し”なのか。さらに、著者はもう一つの法廷に向かう。2006年3月の静岡。札幌と同様、事故直後に生まれ、死亡した胎児に対する業務上過失致死罪が初めて認められた判決である。なぜ、立場や状況によって、見解にこんなにも大きなずれがあるのか。ずれの狭間(はざま)で苦しむ人に救いはあるのか。本書は、少子化が深刻化しながら年間の人工妊娠中絶数約30万件という日本で、これまであいまいにされてきた問題に一石を投じる。

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