[掲載]2009年3月25日朝刊
■標高3500メートルに息づくチベットの原風景
ラダックという地域をご存じだろうか。インドの最北部、中国やパキスタンとの未確定の国境に接した山岳地帯だ。冬は雪と氷に閉ざされ、35年前までは外国人の入境も許されなかった。ここに暮らす人々は、チベット系民族のラダック人を中心に、中国のチベット侵攻以降は亡命チベット人も多数移住した。信仰に支えられた自給自足の穏やかな暮らしが営まれているこの地は、中国化の進むチベット本土よりもチベットらしい伝統を残しているといわれる。
この地に魅せられた日本の若者が、1年半に及ぶ滞在の日々を写真と文で著した。家畜を使った昔ながらの農耕作業を手伝い、各地に残る寺院や熱狂の祭りを訪ね、凍った川を命がけで歩いて奥地に分け入り、知られざる辺境の地の現状を伝える。空は黒く見えるほど青く、岩山は垂直にそそり立ち、大地は乾いている。だが、人々の笑顔は咲きこぼれる花のようだ。行き会う人々は兄弟姉妹のように著者に接する。この過酷な土地で少数民族が生きていくためには、人のきずなが不可欠なのだと著者は思う。そのきずなは日本でも世界のどこの場所でも結ぶことができるはずだともいう。外部から急速な変化が押し寄せているのは、ラダックも例外ではなさそうだ。だが、この本は今の時代が求めるものが、この地にあることを示している。
著者:山本高樹
出版社:ブルース・インターアクションズ 価格:¥ 1,680