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[掲載]週刊朝日2006年5月5日・12日合併増大号[評者]温水ゆかり
文庫書き下ろし。作者自身が語り手で、うっかり実録ものとして読んでしまうが、途中からは空想の産物。パチパチパチ。作者もなかなかの騙(かた)り屋=語り屋さんだ。
ある日「私」は新大阪駅で、いい女を連れた50半ば過ぎの男を見かける。クヒオじゃないか! 自称エリザベス・ジョナ・クヒオ大佐。この20年、彼は同じ手口で結婚詐欺を働いてきた。クヒオ曰く、父はハワイのカメハメハ大王の末裔で、母はエリザベス女王の双子の妹。自分は米軍で特殊任務を遂行するパイロットで、「ワタシト結婚スルト英王室カラ5億円デマス」。スケールが大きすぎてツッコミどころ満載のこの妄想に、なぜかみんなコロリと騙される。無線機をガーガーいわせ、「いまイラクです」などと戦争地帯からの電話を装う迫真性(!?)か。「私」が新たな犠牲者の相談を受け、解決を図ると同時にクヒオの更生に奔走するのが小説部分だ。
衣装や小道具などクヒオのなりきり芸に爆笑。でも読後、ある精神科医の言葉を思い出してしまった。我々は妄想と聞くと色彩豊かな曼陀羅図のようなものを想像するが、実際は寒々しい無彩色の世界とか。作者が小説で少しは救いのある結末を、と願った気持が分かる気がする。
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