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愛でたい文庫

ランドマーク [著]吉田修一

[掲載]週刊朝日2007年08月17日増大号
[評者]温水ゆかり

■寸止め感が素晴らしい

 著者の近刊『悪人』を面白く読んだ人なら、あの叙述スタイルの原型はここにあったのか、と思うような小説。親本は04年刊。

 本来会うはずもなかった者同士がある1点で交差し、凶事が起こる。2本の線が再び離れ始めた時、各線はもはや以前のような状態にない――という主題は、本書では男2人が担う。1級建築士の犬飼(32歳)と、彼が設計したビルの建築現場で働く鉄筋工の隼人(20代前半?)。

 犬飼の自宅はコンクリ打ちっ放しのデザインマンション。妻の文化度は高くないが、だからこそ気楽なパートナーで20歳の愛人もいる。一方、隼人は小倉を飛び出して2年、ここ大宮の現場について1年。ネットで注文したステンレスの貞操帯を装着し、つき合っている元ヤンキーのこずえをギョッとさせる。

 ビルは各層が捻れながら螺旋状に伸びる構造で、小説の構造はその写し絵。カウントダウンで進む章と反比例で不穏さが高まる。ビル倒壊のスローモーション映像が脳内で点滅し始めるが、もちろんそれはこっちの勝手な幻視。ま、再開発自体が元々未来の廃墟を思わせるわけで、この小さな傑作は、寸止め感が素晴らしいのです。

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