ここから本文エリア

RSS

現在位置:asahi.com>BOOK>愛でたい文庫> 記事

愛でたい文庫

期待と回想 語り下ろし伝 [著]鶴見俊輔

[掲載]週刊朝日2008年03月21日増大号
[評者]温水ゆかり

■非マッチョな物言いにみる精神

 本書は『鶴見俊輔集』(全12巻)を母胎として、3人の質問者に応えた「語り下ろし伝」。自叙伝を書くつもりがない人のオーラル・バイオグラフィーとしても貴重。

 鶴見氏は1922年、食卓の話題が政治という家に生まれ(祖父後藤新平、父鶴見祐輔)、15歳で渡米。ハーバードで哲学(プラグマティズム)を修め、日米開戦で帰国。敗戦後、都留重人や丸山眞男らとともに「思想の科学」を創刊した。出自も含め自分を語ればそのまま戦前戦後史語りになるという稀有の人で、同時代の知識人との交流など、浅学の身には人名が有機的に繋がっていくのも有り難い。

 が、個人的に最も面白かったのは氏と女性との関わりだ。長男の躾に責務を感じていた母の恐怖政治(愛情過多)、姉和子の人脈を「据え膳」で食べた「思想の科学」。長年姉が父の介護をしたから自分は社会的な活動ができたとする視点などは、普通男性からは出てこないセリフ。市井からの物言い、在野の精神などとの通路がここにある。テレビ出演の依頼があっても「私は竹村健一に対抗できるような玉じゃない」と言うのには笑った。非マッチョの腰だめ。女の側から賛辞を贈れば、女性に育てられた人だなと思う。

ここから広告です

広告終わり

愛でたい文庫 バックナンバー

バックナンバー

このページのトップに戻る