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愛でたい文庫

山猫 [著]トマージ・ディ・ランペドゥーサ

[掲載]週刊朝日2008年04月25日号
[評者]温水ゆかり

■既得権益者の黄昏感がいい

 著者(1957年没)は、ある朝目覚めたら有名になっていた。が、その時点で現住所はすでに墓地。今世紀に入って、作中で「浮世絵」という比喩を使ったその国で、ヴィスコンティの手になる同題の映画が完全復元版で公開されたり、小沢一郎氏が劇中のセリフを代表選で引用したり、こうして初のイタリア語からの翻訳が出るなど、ちょっとしたブームに柩の中で目を丸くしているかもしれない。

 シチリアの名門貴族で、山猫を紋章とするサリーナ公爵を主人公に、半世紀に亘る一族の興亡を綴る。モデルは著者の曾祖父で、テーマは新旧世代の交替。公爵は天文学者で、星々を眺めるように世俗の循環を眺めている。ゲームの規則は変わらない、役者が違うだけとでも言いたげに。退場の時を心得た既得権益者という黄昏感がいい。

 新世代を、イタリア統一軍に参加する公爵の甥と平民出の婚約者が体現する。映画で甥を演じたのはアラン・ドロン。新しきは快活だが、野卑な顔つきをしているものだなあと思ったが、この原作を読んでヴィスコンティの配役の妙に感嘆。予感や予兆といった絵にならないものが映像化されていたことにも。文化遺産ですね、原作も映画も。

    ◇

 小林惺訳

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