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愛でたい文庫

回想の太宰治 [著]津島美知子

[掲載]週刊朝日2008年05月09日号
[評者]温水ゆかり

■これが本当の品格本か

 身内の回想記数あれど、本書は名品中の名品。解説の伊藤比呂美さんがその魅力をわし掴みにしているので丸投げしたい。「これは、凄い本に出会ったものであります。質も量も。明晰さも、たしかさも、怖ろしさも。科学者の随筆みたいな、美しい揺るぎのない日本語で、太宰治は凝視され、記憶され、保存される」。

 女学校の教師をしていた著者は、井伏鱒二の媒酌で昭和14年に太宰と見合い結婚。甲府で新婚生活を送った後三鷹へ。疎開で甲府に戻り、さらに津軽へ再疎開、三鷹に戻った2年後太宰は心中するから、結婚生活は九年だった。

 文士の妻は重労働。が、批判でも批評でもない場所から“憶病なナルシスト”太宰の素顔を伝えるのが品格で、中でも津軽の風土を描く数篇が眩しい。夫は「自己中心の愛し方」で故郷に執着、民具などには愛着がないと、往復7キロの雪道を歩いて盥を注文しに行くのだ。民俗学的な自分の興味を書くとき、著者のレンズは明るい。

 レンズといえば林忠彦が酒場で撮った有名な1枚。ブーツは配給品と絵解きされるが、片膝立ては太宰の執筆スタイル、白い歯は入れ歯だった。モノ語りになっている側面が、太宰ファンならずとも宝庫。

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