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ビジネス書

幸之助論 [著]ジョン・P・コッター

[掲載]2008年05月04日
[評者]勝見明(ジャーナリスト)

■逆境と闘い、理想を求めて

 ハーバード・ビジネススクールの名物教授である著者はマツシタ・コウノスケという「知名度の低い日本の経営者」の名を冠した寄付講座の教授職に就いたとき、初めは「不愉快」だったと記す。それが資料を読み進むにつれ次第に引き込まれ、「偉大なビジネス・リーダー」の伝記を書こうと決心するに至る。

 リーダーシップ論の権威が松下幸之助の人生で着目したのは、心の世界――特に幼少期の精神的外傷(トラウマ)――と苦難を通じた生涯にわたる成長だ。4歳のときに生家が破産。1年のうちに3人の兄姉が立て続けに病死。自身は溺愛(できあい)されたが経済的困窮から9歳で丁稚(でっち)奉公へ出された。

 その後、22歳で起業し、より安くより良い製品を次々発売し、松下電器を成長企業へと押し上げる。ただその間も、20代までに残る4人の兄姉と父母をすべて失い、1歳に満たない自身の長男までが命を落とす。

 埋めがたい喪失感と成功していくことへの罪悪感。その負の感情が強まるほど、正のエネルギーとしての信念や使命感もまた高まり、経営における人道主義を唱え、自ら理想を追い求めていった。経営の神様としてではなく、逆境と闘い続けた個としての幸之助像は、固定観念を持たない著者ならではの視点だろう。

 苦難は人を成長させる。邦訳は98年版に次ぎ、本書は新訳。環境が激変する今こそ、幸之助像の読み替えをしたい。

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