[評者]清野由美(ジャーナリスト)
[掲載]2010年11月7日
■「縮小」にかじ切り余裕の生活
通勤電車で見る勤め人の表情が、ここ数年ますます暗くなっているように思う。モノが売れない一方で、弱肉強食の市場争奪戦は激しさを増し、格差は拡大する一方。今日、勝ち組と言われても、明日は負けるかもしれぬ恐怖に、絶えず心はさいなまれる。
11年前の著者もそうだった。新卒入社した大手小売企業の店頭で、モノを売りまくったが、売れば売るほど募るのは虚(むな)しさ。大量生産・大量消費で回る時代は、もはや過去のものなのに、会社はその原理にしがみつき、その結果、周囲の誰をも幸せにしない。30歳で彼が出した答えは、みずから原理を転換――ダウンシフト(減速)することだった。キーワードは「拡大」ではなく「縮小」だ。
会社を辞めて、池袋の片隅に手作りで小さなオーガニック・バーを開いた。ミニマム(最小)主義を貫き、バーは夜だけの営業で、1日5人の客が来ればよしとした。それでも店は黒字を維持し、予定以上に儲(もう)けが出たら休みを増やした。年収は600万円から350万円にダウンしたが、時間と気持ちの余裕を取り戻した上に、手元に残るお金は、毎月5万〜10万円と、勤め人時代と変わらない。そこから浮かび上がるのは、右肩上がりの幻想にとらわれ、疲弊していく社会への強烈な疑問だ。
“痛勤”電車の会社員のみならず、著者のような働き方が可能だ、という事実に励まされる人は多いことだろう。
著者:高坂 勝
出版社:幻冬舎 価格:¥ 1,365