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左から『一瞬の風になれ』(3巻)、『風が強く吹いている』『Run!Run!Run!』
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走ることをテーマにした小説が相次いで刊行された。競走とは縁遠かった大学生たちが箱根駅伝を目指したり、サッカー少年がスプリンターに成長したり。魔球を繰り出すヒーローの登場とはちょっと違ったスポーツの世界。多くの人が持つ走った経験を土台に共感を広げる。
佐藤多佳子さんの『一瞬の風になれ』(講談社)は神奈川県の高校陸上部が舞台。中学までやってきたサッカーをあきらめて陸上部に入った主人公の新二と、幼なじみで、努力が苦手な天才スプリンターの3年間の成長を丁寧に描く。
原稿用紙1300枚の書き下ろしで、8月に1巻、9月に2巻、10月の3巻で完結した。取材、執筆は4年がかりとなり、取材に通った高校で2学年の卒業を見届けた。
花形はスプリント競技だが、読み応えがあるのは4人の選手が100メートルずつバトンをつなぐリレーだ。「地区予選が軽いとか、トップの選手の試合が重いというわけではない。いろんなレベルの選手がいて、どの選手のどの試合も同じくらい大切だった」。佐藤さんは走ることの魅力をこう語った。
三浦しをんさんの『風が強く吹いている』(新潮社)は、箱根駅伝を目指すことになった大学生たちの物語だ。才能がありながら走る環境に見放された主人公・走(かける)が、古いアパートで気ままに暮らしてきた住人たちとたった10人で、しかも1年間で、「箱根」の頂点へたすきをつなぐ。
こちらも執筆期間の長い1冊で、500枚程度を1年で書き下ろす予定が、足かけ6年の1200枚になった。「取材して、選手たちがものすごく走っているのを知った。彼らの頑張りを伝えるためにはこれだけの時間と枚数が必要だった。どれだけ書いても実際の練習には及ばない。永遠に終わらないかもと思いました」と三浦さん。
「一瞬で通り過ぎる速度、選手たちの息遣い、体から発散するエネルギーを目の前で見て、心動かされた」といい、書いているうちに自分でも走り出したくなったそうだ。
今月刊行された桂望実さんの作品は、『Run!Run!Run!』(文芸春秋)。オリンピックの金メダルを目標にする孤独な天才ランナーが登場する。
短距離も長距離も、陸上競技は走り込みや筋トレを続け、少しずつタイムを伸ばしてゆく地道な競技だ。一見、ドラマチックではない。しかし、走ることは最も身近な運動で、作中のランナーに読み手自身を置き換えやすいところもある。
佐藤さん、三浦さんとも従来のファン層は若い世代の女性が中心だったが、走ることを描いた近作は30〜50代まで読者層が広がり、男性も多いという。
『一瞬の風になれ』の編集者の堀彩子さんはこんな見方をする。「陸上経験者でなくても、何かに打ち込んだときのピュアな気持ちはみんな共感できる。大人になった自分に重ねて、仕事を頑張ろうと、前向きになれるのでは」