ヤングアダルト本のジャンルで「教養書」が人気を集めている。養老孟司さんらが「生きていくためのリアルな知恵」を書き下ろした「よりみちパン!セ」シリーズ(理論社)からはベストセラーも出た。古典の魅力を新たに伝える「理想の教室」シリーズ(みすず書房)も好評だ。
「よりみちパン!セ」は04年10月に創刊され、今年10月から第3期の刊行が始まった。白川静監修・山本史也著『神さまがくれた漢字たち』や小熊英二『日本という国』といった硬派から、養老孟司『バカなおとなにならない脳』、森達也『いのちの食べかた』、みうらじゅん『正しい保健体育』など、ちょっときわどい教養までがそろう。
その幅広さと、イラストを多用したポップな作りが魅力で、2期までの20巻で計80万部、17万、18万部のベストセラーもある。
「学校でも家でも教えてくれない、だけど生きていくうえで大切なことがテーマです」と、理論社の小宮山民人取締役編集部長。吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』の現代版との思いがあったという。
高校生から大学生を対象にしているのが「理想の教室」シリーズだ。魅力的な文章と出会うための場を提供したいと、外国文学研究者らが企画し、古典の読み方を伝える。
仏文学者の野崎歓さんが書いたのは『カミュ「よそもの」きみの友だち』。「よそもの」とはカミュの『異邦人』で、この一部を大胆に新訳し、タイトルも付け替えた。ドストエフスキー『悪霊』、夏目漱石『こころ』、パスカル『パンセ』、メルヴィル『白鯨』など、題材は世界文学が多い。巻頭に原文のテキストを置き、語りかけるような調子の文章でつづる。
ほかに、樋口陽一『「日本国憲法」まっとうに議論するために』など、政治や音楽、映画の本もある。編集部の島原裕司さんは「わかりやすくて本格的。若い人に向けたこのスタイルは筆がのるらしく、意欲的な原稿をいただいている」と話す。
文芸春秋は12月から「はじめての文学」シリーズを刊行する。若い世代に小説の面白さを伝えたいという企画で、現代を代表する12人の作家が自作の中短編から編んだ。初回は村上春樹、村上龍の2冊。今後、よしもとばなな、宮部みゆき、川上弘美、桐野夏生らの作品を予定する。
ヤングアダルト出身の森絵都が直木賞を受賞するなど、出版界、とくに小説ではヤングアダルトジャンルへの関心が高い。翻訳家で法政大学教授の金原瑞人さんは、「小説から始まったブームが続いており、教養書でも注目が集まっているのでしょう。若い人が手に取ってみたいような装丁や企画の本がやっと出てきたと思う」と話す。
一方で、「読んでいるのは若い人だけでなく、普通の新書を読むのがしんどい人たちも流れているんじゃないでしょうか」と、指摘する。
理論社、みすず書房のいずれも「実は大人の読者が想像した以上に多い」と話す。両社の教養シリーズ人気をもって、若者の本離れが止まった、とまでは言えないようだ。