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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>ひと・流行・話題> 記事 ひと・流行・話題 漂泊の歌人、西行の根源とは 夢枕獏さん、新連載「宿神」2006年12月19日 夢枕獏さんの連載小説「宿神(しゅくじん)」が22日から始まる。物語を通して、歌人として、漂泊者として知られる西行の根源を探る。連載の開始を前に、『精霊の王』で宿神研究に新展開をもたらした宗教人類学者の中沢新一さんと夢枕さんが、日本の古層にひそむ宿神と西行の魅力について語った。
◇ 夢枕――日本の古い神々で、精霊のような宿神について中沢さんに教えてもらって、20年以上になります。比叡山に一緒に出かけ、常行堂の前を通りかかったとき、摩多羅(またら)神がまつられていることなどを教わりました。 中沢――魔多羅神は由来といい謎だらけの神で、猿楽をはじめとする芸能者たちは自分たちの守護神である宿神と同一視しています。中世の宗教思想などを検討すると、宿神は仏教よりもはるか以前の、一種の古層に属する思考を象徴していると考えられます。 日本の古層につながる宿神への興味は、思春期に柳田国男の『石神問答』を読んだころから持っているのですが、『精霊の王』を書き終えて、改めて宿神というものが縄文文化にまでさかのぼる日本文化の水脈を解明する手がかりになるという実感を得ました。 夢枕――『精霊の王』は日本人って何だろうとか、弥生時代以前の日本人の精神構造はどんなだろうか、という疑問に答えてくれる本でした。 中沢――金春禅竹の「明宿集」に衝撃を受けて、ここまで来ました。そこでは、猿楽で最も重要な翁の本質を明らかにしようとし、翁が宿神であり、宿神は宇宙の根源である「隠された王」であるという主張が書かれています。 夢枕――以前、野村萬斎さんが「三番叟(さんばそう)」を演じるのを見たときに、そのあやしさに驚きました。萬斎さんに聞くと、「翁は大日如来だという人もいます」と言われ、意味が分からないまま、その通りだなと思ったことがあります。 中沢さんから初めて宿神の話を聞いた時も何の手がかりもないぐらい分からなかったのですが、なぜかずっとその記憶が残っていて、90年には雑誌で「宿神」という小説の連載をしたこともあります。分からないという気持ちを抱えながら、この10年でしだいに自分の中で考えが発酵してきました。 中沢――西行の旅の跡をたどった松尾芭蕉の「奥の細道」の序文には、「道祖神のまねきにあひて」ということばがありますが、道祖神もまた宿神の仲間です。 夢枕――文章のレトリックではなくて、芭蕉は宿神のことを知っていたんですね。 中沢――獏さんがひかれているのは、西行が書いたとされる偽書「撰集抄」に出てくる人骨から生きた人間を作ったというエピソードですか。 夢枕――ええ。でも、それだけで物語を作ると200枚で終わってしまうんです(笑い)。 西行は歌の名手として知られていますが、流鏑馬(やぶさめ)や蹴鞠(けまり)も名人級だったという言い伝えが残っています。ほぼ同時代の蹴鞠の名手で「鞠聖」とも呼ばれた藤原成通にも教わっていたはずです。そこで宿神につながりました。 中沢――蹴鞠にあたるものはユーラシアからアメリカ先住民まで広く伝わっています。人が地上にいて、鞠が空中にとどまり続けることが肝要で、天と地の間に媒介を挿入して、バランスを取り戻すものなのです。古代中国で春分や秋分の日のお祭りに、落ちるのでもなく上るのでもないブランコが広場や野原に出され、多くの人々が乗って遊んだということも同じ理由でしょう。 成通卿には、千日の間蹴鞠を続けた満願の晩に、童子のような鞠の精と出会ったという伝説があります。この鞠の精は、芸能の源泉である深い闇の空間につなげてくれる存在で、宿神はそうした空間そのものでもあります。 夢枕――宿神という概念を当てはめることで、西行の本地垂迹(ほんちすいじゃく)思想なども読み解ける気がします。西行には、あやしく、おかしな伝説がたくさんあるのですが、それも含めた誰も見たことのない新たな西行像が書けそうです。 中沢――不合理だと思われているものが、実は最も合理的で奥の深いものだとみえてくることがあります。新たな西行の物語、楽しみにしています。 ◇ 夢枕獏(ゆめまくら・ばく) 51年生まれ。作家。著書に『上弦の月を喰(た)べる獅子』(日本SF大賞)、『神々の山嶺(いただき)』(柴田錬三郎賞)など。 中沢新一(なかざわ・しんいち) 50年生まれ。多摩美術大芸術人類学研究所長。著書に『対称性人類学』(小林秀雄賞)など。
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