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辻仁成氏が新作長編 絶望の時代に希望を書く

2007年04月26日

 作家の辻仁成氏が、中学校での殺人事件に巻き込まれた少年の揺れる心を描く『ピアニシモ・ピアニシモ』(文芸春秋)を刊行した。すばる文学賞を受けたデビュー作『ピアニシモ』(90年)の主人公トオルとその分身ヒカルを再登場させ、まったく別の物語に仕立てた長編だ。移住先のパリから一時帰国した辻氏は「自分の原点に戻りつつ、今の時代を見据えるための試み」と語る。

写真「もうすぐ50歳にして初の少年小説に挑んだ」と語る辻仁成氏=東京都千代田区で

 辻氏は「『ピアニシモ』を書いた80年代は、空虚ではあったが豊かで安全だった。だが、この18年くらいの間に世界は絶望的に変化した。9・11事件で人類はパンドラの匣(はこ)を開けたと思う。テロは姿なき人々による終わりなき戦争で、どちらが正義かもわからない。ヨーロッパにいると危険が実感されます」と語る。

 「80年代は個人が小さく小さく生きているといった風潮だったが、今は子供たちが首をすくめている感じなので『ピアニシモ』を二つ重ねたんです。絶望の強い時代に小説で希望を書けるか、挑んでみました」

 トオルが入学した中学校では3年前にも女生徒が殺害されており、今再び殺人事件が起きる。トオルは幽霊らしい少女に導かれて、地下にあるもう一つの中学校へ降りてゆく……。

 少年小説とうたうが、現実と幻想、善と悪とが混沌(こんとん)とし、ストーリーは一筋縄では行かない。トオルにまとわりつく冷笑的なヒカルは、他の人間には見えない。トオルの願望のようであり、悪にも変化する。

 「人間の中にある自分を抑える気持ちは一定方向ではなく、揺れる存在としてヒカルを描き出した。複雑な時代になっていることと重ねて、故意につかみづらい物語にしました。読者が方向を探っているうちに予想外のところにたどり着く面白さを狙ったんです」

 悪夢的な展開の中で、心が男で体が女の同級生への恋情がトオルを希望へと導く。思春期の自意識をファンタジー風の物語に具象化した小説とも読める。

 「W・ゴールディングの『蠅(はえ)の王』が好きで、ああいう少年小説を書いてみたかった。テロや自殺、いじめの時代にあって、失われているのは感情だと思う。灰色の不気味さと対峙(たいじ)しながら、未来を信じようとする姿を描いてみました」

 5年前から住んでいるパリでは、3歳になる息子の幼稚園への送り迎えが生活の軸で、残りの時間の大半は執筆に費やす。朗読会で現地の文化人とも交流している。「外から日本を眺めると、良さも悪さもよく見えます」

 今年度から京都造形芸術大の教授に就任、年2回帰国して集中講義を行う。

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