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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>ひと・流行・話題> 記事 ひと・流行・話題 伊藤比呂美さんの新作は修羅場の叙事詩2007年07月18日 米国在住の詩人、作家伊藤比呂美さん(51)の新作『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』(講談社)が出た。寝たきりになった母と父の衰弱に始まった日米往復の遠距離介護。アメリカでは夫もまた病み、次女は大学生活になじめず情緒不安定に――。ふりかかった艱難(かんなん)辛苦を長編詩につづる。
詩集『河原荒草』(05年、高見順賞)を刊行し、次作の構想を練っていたころ。「説教節、神仏の縁起譚(たん)を書きたい」と思っていた矢先に母が、続いて父が倒れた。 文芸誌「群像」で連載を始めた時には、1カ月半おきの帰国が常態になっていた。現実をそのまま書けば愚痴になるから、距離をおいて見ようとしたが、難しかったという。 「だらだらした私小説は絶対やだ。何よりも詩を書くんだという意識が強かった。どうすればこれを現代詩にできるか模索した」とも。見つけたのが「他者の声を借りる」手法である。 「オーケストラみたいにいろんな声を響かせることによって詩にしよう、と。自分の声(文体)と違う声が入ってくる。ぎくしゃくする。意味ではなくて、響きあう声の力で重層性が出るはずだと思った」 カフカやホメロスや中原中也の声を借りた。石牟礼道子さんと対談した際の、石牟礼さんの声も入る。病床で幻を見る母の様子を、梁塵秘抄(りょうじんひしょう)の一節〈仏は常にいませども、現(うつつ)ならぬぞあはれなる〉を翻案して重ね描写したくだりは圧巻。 「親を見ていて、年寄りはゆっくり死ぬんだと初めて知った。死の前に老いがある。老いて病んで死ぬ。それはどうも苦しいことらしい。今までおっぱいとか生むとかエロとかを考えてきた私が、いきなり死というテーマにとりつかれた」 執筆中、実際巣鴨にいったという。生地に近くこども心になじみ深いお地蔵様だった。「どこまで本気だったか。でもどこかに、この苦を祓(はら)ってと願う気持ちがあったかもしれない」 父母とのやりとりや三女同行の里帰りに抵抗する夫との肉弾戦もどきのバトルなど、読み手は「わたし」の八方ふさがりに同情しつつ申し訳ないが時に笑う。やがて、いつか来る老いや死に思いは至る。力作だ。
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