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ケータイ小説、心の実用書 現代の「口承文芸」

2008年02月16日

 「源氏物語の国で一つの文学ジャンルになった」とニューヨーク・タイムズが伝えたケータイ小説の人気ぶり。昨年の文芸書ベストセラーリストの半ばを占めた。書くのも読むのも10、20代の女性が多い。少女たちの空想の器を通して、その心の風景を探ってみた。

写真携帯電話とケータイ小説で、少女たちは心の空洞を埋めている

 大手の携帯サイト「魔法のiらんど」に書き込まれた小説は、タイトルだけで100万以上になる。書くのも読むのも無料。少しずつ書き進められ、読者が感想を書き込む。反応を見て筋が変わることもある。

 スターツ出版は、すでに30冊を出した。出版不況の中で、昨年ベストセラー1位の『恋空(上下)』(美嘉)や『天使がくれたもの』(Chaco)シリーズなど、いくつも100万部をこえている。同2位『赤い糸』シリーズのゴマブックスや大手の講談社なども次々参入。出版社が独自に投稿サイトを開き、公募の文学賞を主催する。

 どの本も横組み。改行が多い。中高生でも買いやすい1冊1000円あたりに価格を設定。出版後も、サイトでただで読ませるあたりが、プロ作家と異なるところ。

 「実話をもとにしたフィクション」「切ナイ恋」などとうたうことが多い。複数のセックス体験、レイプ、両親の不和、仲間のイジメ、クスリがあって、恋人はよく交通事故死か病死する。具体的な地名はあまり出てこないが舞台は地方都市と感じさせ、実際に地方でよく売れる。

 初めて読んだとき、情景描写が少なくて会話と感傷的な文章が続くのに、戸惑った。実際の体験もまじっているはずなのに、いくつかの事例が使い回されているようで、どれも感触がよく似ている。そこに、メルアド数で友達を数え、セックスには抵抗がないが、家庭でも学校でも居場所のない少女の姿がみえてきた。

 「書き込み機能で読者同士に共感が広がり、口コミで伝わっていく」。ケータイ小説の仕掛け人である、スターツ出版書籍編集部の松島滋さんはいう。

 「読者の反応をみると、親子、友達の関係が希薄。コミュニケーションを求めてケータイ小説につながり、著者の言葉に救われている。実話が強調されるのは女性は身の回りのできごとに関心が強いからで、文学というより心の実用書かもしれない」

 凛、美嘉、Chacoなど匿名性の強い著者名。読者の反応にじかに触れる点でも、「小説以前の口承文芸に近いのではないか」というのは社会学者の鈴木謙介さん。「いろいろあって、いま」という書き方が多いことに注目する。「恋愛や結婚は人生の通過点のひとつになった。だが、将来を見通せず男性にも仕事にも逃げられない。不安定さの中に投げだされているから、そのときどきで過去と現在を確認しようとする。その『いま』もどんどん書き換えられていく感じ」

 心理学者小倉千加子さんは、親の過保護か無関心かで、現代の少女は両極化しているという。経済がいきづまり、機能不全をおこす地方都市の家族。「自分を受け止めてくれる存在がいきなり消滅する恋人の死は、少女たちの諦念(ていねん)の象徴ではないか」

 「魔法のiらんど」広報の野口恵さんは、「現場で感じるのは、時代を作るユーザーさんのスピードがあまりに速いこと」という。

 疑似共同体を作った少女たちの成長にあわせ、ケータイ小説はどのように成熟するのだろうか。

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