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ひと・流行・話題

怒り込めた沖縄小説 馳星周さん新刊「弥勒世」

2008年03月08日

 都会の闇をあぶり出すような「暗黒(ノワール)小説」を書いてきた。馳星周さんの最新刊『弥勒世(みるくゆー)』(小学館)は、返還直前の揺れる沖縄を舞台にした長編小説だ。沖縄では今も米兵の犯罪が後を絶たない。怒れる作家は、その怒りを物語に込めて、怒らない大衆にぶつける。

 本の発売直前に米兵による暴行事件が起きた。「今回は被害者が中学生だったから大きく報道されたけれど、沖縄では日常茶飯事のようにあることだろう」と受け止める。

 取材で訪れた沖縄で、まず最初に嘉手納基地を見た。そしてその巨大さに圧倒された。「楽園でも何でもねえじゃん」という思いがわき出る。「なぜもっと怒らないんだろう。みんな観光に行くだけ。でもそれは違う。もっと怒るべきだと思う」

 沖縄のうちなーんちゅは日本に裏切られ、アメリカに踏みにじられ、それでもカチャーシーを踊り歌い、〈すべてを忘却することで生きてきた〉。物語の主人公尚友(しょうゆう)はそれが許せない。コザで新聞記者をしていた彼は、反戦活動の市民グループにまぎれてCIAに情報を流すスパイになる。生きるために憎しみあい、裏切り続ける主人公の行く末は、沖縄の歩んだ道のように混沌(こんとん)としてゆく。

 連載にほぼ1冊分を加筆して上下2巻の完成に5年かかった。資料100冊以上を買い集め、生活のにおいが伝わるリアルさを追求した。が、「うのみにしないこと」とくぎを刺す。

 『不夜城』の読者から「歌舞伎町は怖いところなのか」と聞かれて絶句したことがあったそうだ。「みんな何でも単純に信じてしまう。インターネットの時代はなおさら。単純に怒って、単純に涙を流し、単純に人を殺す。なぜ、こんなにでたらめなのか」。違和感は消えない。

 書名は〈神々に祝福された豊穣(ほうじょう)の世界〉という意味の沖縄の言葉。でも「弥勒世なんて、ない」と思う。個人的な「弥勒世」を聞くと、数秒考えた後で「雪の中で犬の写真を撮っているとき」。犬のために軽井沢に移り、犬を撮るためにデジタル一眼レフを購入した愛犬家。ブログに毎日、犬の写真を更新する。

 書きたいことを書いている今は「作家が天職」だと思う。逆にハッピーエンドを求められたら「それはつらい」。

 「人生は不公平だし、努力すれば夢はかなうなんて言葉にはツバを吐きかけたい。のほほんと生きている人たちの首根っこをつかまえて、これが現実だって突きつけてやるような小説を書いていきたい」

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